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意地悪なのに、優しい人⑥
優太君はグッタリしており、全身が浮腫んで皮膚が紫色に変色している。揺れるストレッチャーの上で、優太君の小さな体も力なく揺れていた。
「明らかに手遅れだ……」
咄嗟にそう感じる。
それと同時に、俺は強い恐怖を感じた。
俺だったら、この子に何をしてあげられるだろうか。
「成宮先生……」
「ん?」
俺は咄嗟に成宮先生の白衣を掴んだ。
「大丈夫……ですか?」
「そんなんわかんねぇよ」
「え?」
「ただ、やれるだけの事をやるだけだろ?」
その真っ直ぐな瞳を見た瞬間、俺の胸がまた甘い不整脈を打ち始める。
トクン……トクン…。
「水瀬、良く見とけ。小児科ってのはな、風邪を引いたくらいの子供ばっかじゃない。この世に生を受けて、『これからまだまだ続いて行かなければならない命』を守る為の戦場なんだ」
「これから、まだまだ続いて行かなければならない命……」
「あんまりopeが長引くようなら先に帰ってろ」
それだけ言い残すと、成宮先生は俺に背中を向ける。
あ、行っちゃう……。
「成宮先生!!」
「あ?」
俺の声にに成宮先生が迷惑そうな顔で振り向いた。
「頑張ってください!!」
何で自分が成宮先生を引き止めたのかはわからなかったけど、涙が溢れて来てしまった。
だって、貴方……かっこ良すぎでしょう。
「お前に言われたくねぇんだよ!バァカ!」
口が悪い割には、凄く優しく笑ってくれる。その笑顔で俺の甘い不整脈はどんどん悪化して行き……呼吸も苦しくなってきてしまう。
なんだよ、これ……。
俺は、意味の分からないこの不快な症状に、これ先苦しみ続けることになるなんて……その時の俺は、思っても見なかった。
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