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意地悪なのに、優しい人㉒

「グスグス……うぅ……」  優しい風が優しく髪を撫でてくれる。泣きすぎて火照った顔に、冷たい夜風が気持ちよかった。 「見つけた」  突然、ポンッと頭に温かい手が置かれる。  慌てて、隣に来た人物の顔を確認すれば、それは成宮先生だった。 「急にいなくなったから、心配したぞ」 「ふぇ……うぅ……成宮先生……」 「お前は子供か」  俺は夢中で成宮先生に抱きついた。  そんな俺を、優しく受け止めてくれる。その腕の中の温もりに、俺は酷く安堵した。 「沙羅ちゃんを助けてあげられませんでした」 「うん。でも、お前は頑張ったよ」 「でも、でも……俺は、助けてあげたかった。だって、俺は医者だから」 「そうだな。助けてやりたかったんだよな」 「はい……助けてあげたかった」 「わかった、わかったよ」  成宮先生は、子供のように泣きじゃくる俺を抱き締めて、優しく頭を撫でてくれる。まるで、泣く子供をあやすかのように、優しく、優しく……。 「泣くな、水瀬は頑張ったよ。ハムスターなりに」 「ひ、酷い……!」 「ふふっ。冗談だよ」  トクントクン。  まただ……胸が痛くて、苦しい。  でも、なんでだろう……めちゃくちゃ幸せだ。  俺は、自分を抱き締めてくれる成宮先生の力強い腕に、そっと体を預ける。  この人には、自分の全てをさらけ出しても大丈夫だって思える。この人は俺のどんな汚い部分だって受け止めてくれるから。だから、大丈夫だって。 「もう泣くな。葵……泣くな」  俺の頭を撫でながら、優しく髪を搔き上げてくれる。  頬を伝う涙を唇で掬ってくれて、そのままチュッと唇にキスをくれた。  泣き疲れた俺が成宮先生を見上げれば、びっくりするくらい穏やかな顔をした成宮先生と視線が絡み合う。 「ようやく泣き止んだな」  そう微笑む成宮先生を見れば、また胸がギュッと締め付けられて、呼吸ができなくなってしまった。

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