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意地悪なのに、優しい人㉔
「葵の友達が言った通り、その病気は俺にしか治せない。だから、俺が責任をもって治してやるよ?」
「え?どうやって……?」
「研修が全部終わったら、いや、今すぐにでも俺の所に嫁に来い」
「嫁に?」
「そうだ。いくら鈍感なお前でもわかるだろう?」
クイッと顎を持ち上げられて、成宮先生と強引に視線を合わせられる。
「な、成宮先生……」
その、見たことのない真剣な表情に、俺は思わず息を飲んだ。
「これはプロポーズだよ」
「……プロポーズ……」
「そうだ。俺が一生かけてお前の病気を治してやるから……てか、一生俺に患ってろ」
その不敵な笑みに、俺の思考回路が崩壊するのを感じた。
俺は、今、きっと世界で一番邪悪で最強な罠にかかったネズミだ。
でも、なんでだろう。この罠から、一生逃げ出したくない。もっともっと、キツク締めて……もう逃げられないくらいに。
「成宮先生……」
「ん?」
「大好きです」
「良くできました」
もう一度、勇気を出して成宮先生の腕の中に飛び込めば、ギュッと強く抱き締めてくれる。
その温かな腕の中で、俺は確かな幸せを感じていた。
そして思う。
きっと、俺の病気は一生治らないって。
超ハイスペックの若き小児科のエース、成宮千歳にも治すことのできない不治の病に、俺の心は甘く浸食されて行った。
そしてきっと、どんどん悪化していく一方だろう。
でも、俺はそれで構わない。
だって、俺は貴方にベタ惚れなんだから。
だから……。
「貴方のお気に召すままに」
俺は成宮先生の耳元で、そっと囁いた。
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