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ごめんね、大好き㉓
「はぁはぁはぁ……」
俺は、智彰の腕の中で必死に乱れた呼吸を整える。
「可愛かった、葵さん」
智彰が囁きながら俺の額に、そっとキスを落とした。
成宮先生によって、『抱く』という体から、『抱かれる』という体に躾けられてしまった俺の体は、意図も簡単に、智彰によって絶頂を迎えさせられてしまった。
「千歳さん……」
俺の体は、成宮先生が喜ぶように、成宮先生に抱かれる為に変化していった。
そう、俺の体は……成宮先生の為にあったんだ。
いつも、あの人は俺を大切に大切に抱いてくれた。そりゃ、医局とか、ナースステーションの隣の部屋とか、所かまわず発情してしまうのは、俺に取ったら悩みの種だった。
それでも、いつも冷静沈着なあの『成宮千歳』が、その冷静さを失う程に、自分を求めてくれることが嬉しくもあった。それだけ、自分はこの人に愛されていると感じられたから。
「千歳さん、ごめんなさい」
俺の頬を、涙が伝った。
あの人は、いつでもどこでも、お猿さんみたいに俺を求めてきたけど、俺はそんな千歳さんが……。
「ごめんなさい。千歳さんが大切にしてくれてたこの体を、俺……汚しちゃった」
涙が次から次へと溢れてきたから、俺は慌てて洋服の袖でそれを拭った。
「ごめんなさい」
頭の中に成宮先生の顔が浮かんできて、俺の胸は締め付けられる。
胸が痛くて、苦しくて……千切れそうだ。
「ごめんなさい……でも、大好き」
そんな俺を見て、智彰がそっと笑う。
「大丈夫。葵さんの答えなんかわかりきってるから」
俺から、そっと俺から体を離した。
「葵さん、いい子だから……帰ろ?兄貴の所に。明日送ってくよ」
智彰まで泣きそうな顔をしている。そんな顔をする智彰を見ているのが辛かった。
「わかった」
俺が小さく頷く。
あまりにも素直に成宮先生の所に帰ろうと思えた俺は、もしかしたら本当は帰りたかったのかもしれない。ただ、きっかけがなかったんだ。
それに、何より素直になれなかった。意地を張って、色々なことから目を背けて……結局、成宮先生だけでなくて、智彰や柏木にまで迷惑をかけてしまった。
「あーあ、楽しくて幸せな魔法が解けちゃった」
俺を抱き締めながらクスクスと笑う智彰の優しさに、俺はもう甘えてなんていられない。
俺は、成宮先生の所に戻る決心がついた。
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