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野良猫みたいな恋⑤
橘先生が来た日から、病院中がざわめきだった。
小児科病棟に突如現れたイケメンに、噂は持ち切りとなる。小児科の成宮先生と橘先生は、もはやうちの病院の名物になってしまったかのようだ。
「小児科病棟に超イケメンのドクターが2人もいるらしいよ!」
「あー!知ってる知ってる!めちゃくちゃイケメンらしいじゃん!?」
「マジで!?あたし、ちょっと覗いてこようかな?」
そんな噂話が飛び交い、明らかに2人を見に来たスタッフが小児科病棟をウロウロしているのがわかる。
入院している子供の母親達は、みんな目をキラキラさせながら1日2回の回診を待ち侘びている。
橘先生が来た日から病院中がザワついて、異様な雰囲気に包まれた。
俺はと言うと、完全にその被害を被っている。
看護師さん達には2人のことを色々問いただされるし、写真を撮ってきて欲しいと頼まれる始末だ。
加えて俺が病室に行くと、
「あぁ、お前か……」
と明らかにガッカリした雰囲気に包まれるのだ。きっとみんなが、成宮先生や橘先生に来て欲しいんだろうな……っていうのはわかるんだけど、俺だってその度に傷ついてしまうのだ。
「キャー!見て見て!ナースステーションに成宮先生と橘先生がいる!?」
「ヤダヤダ!めちゃくちゃかっこいい!」
看護師さんの黄色い声援が聞こえてくる。
そっとナースステーションを覗き込めば、2人してMRIの画像をチェックしていた。その姿は惚れ惚れするくらいかっこいい。
綺麗な成宮先生に、可愛くてかっこいい橘先生。
タイプが全く違うのに、凄く絵になる。
「なんかさ……あの2人異常に距離が近くない?」
「あ、それあたしも思った!2人でいる時の雰囲気が、なんか普通じゃないって言うか……恋人みたいなんだよね!」
「いつも2人でいるし、2人だけの世界があるんだよ」
「めっちゃわかるー!案外デキてたりして!?」
「ヤダー!イケメン同士でBLって超萌えるんだけど!?」
なんだ、それ……。
看護師さん達の楽しそうな話に、俺の耳がダンボになってしまう。
ちょっと聞き捨てならないんだけど……俺の胸がザワザワした。
「あの、成宮先生と橘先生って、前にこの病棟で一緒に働いてたんですよね?」
「あ、水瀬先生。うーん、あたし達はその当時のことは知らないんだけど、そうだったみたいですよ。花岡師長が言ってました」
「へぇ……」
さりげなく看護師さんから話を聞き出そうと、ガールズトークの輪に入り込んだ。
「成宮先生と橘先生ってそんなに仲がいいんですか?」
「そうなんですよ!ここ最近、いつも一緒にいて……超目の保養になります」
看護師さん達はウットリしながら2人を見つめている。結局女子はイケメンが好きなのか……といじけたくなってしまった。
「でも、成宮先生と橘先生って付き合ってるわけじゃないですよね?」
俺が1番知りたかった核心の部分。知りたいけど、知るのが凄く怖い……でも、好奇心のほうが勝ってしまう。
「どうなんだろう……でも見てるとボディタッチが多いし、雰囲気そのものが恋人同士なんですよ」
「それに、今は付き合ってないけど、前に付き合ってたなんてことはあるかも!?」
「水瀬先生もうかうかしてると、成宮先生を盗られちゃいますよ!」
「あはははっ、気をつけます……」
看護師さんからの忠告に、乾いた笑いが口をついた。
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