120 / 184
野良猫みたいな恋⑦
可愛くない猫は、恋人が当直の日に家でウジウジいじけていた。
いつもは当直の成宮先生を探して、
「帰ります」
って声をかけるのが当たり前だった。
たった一晩離れるだけなのに……それでも寂しくて。別れを惜しむかのように頭を撫でてもらっていた。
「また明日な」
そう寂しそうに笑う成宮先生の切なそう顔が、凄くかっこよくて。俺は愛されてるなって思えたんだ。
そんな俺の変化に気付いた成宮先生が、珍しく『どうした?』ってLINEを送ってくれたのに、俺はそれさえ も無視した。
成宮先生と橘先生が一緒にいるのを思い出すだけで、胸がギュッと締め付けられる。涙が溢れ出しそうになったから、慌てて手の甲で拭う。
「ちくしょう……」
俺は鼻をすすりながら、真夜中のゲームセンターに駆け込む。そして、溢れ出す昂りをクレーンゲームにぶつけて、大量の景品をGETしたのだった。
「あぁ、眠い……」
結局閉店近くまでゲームセンターで時間を潰した俺は、帰ってから景品のぬいぐるみに埋もれて寝ていた。
リビングで寝てしまったせいか体中が痛くて。慌てて朝シャワーを浴びたから、髪はビショビショのままで出勤することとなった。
加えて、無意識にやたら目付きの悪いぬいぐるみばかり取っていた自分に、嫌気がさした。
重たい体を引きずって、なんとか病棟に辿り着く。
「ゾンビになったらこんな感じなのかな……」
頭の片隅で思う。
「あ……」
遠くで成宮先生と橘先生が楽しそうに笑ってる。最近、本当に仲いいよなって思う。気が付けばいつも一緒にいる。
正直、俺は成宮先生と橘先生が仲良くしてるのが面白くない。だって橘先生になんか逆立ちしても、恐らく地球が滅亡したって勝てる要素なんか一つもないから。
「なんで朝からあんなに爽やかなんだよ」
2人はコーヒーを片手に談笑をしているんだけど、それが悔しいくらい様になっていた。
眩しい朝日がスポットライトのように2人に差し込み、キラキラとより一層輝かせている。草原を駆け抜けるような爽やかな風が駆け抜けて行き、柔らかな薔薇の香りが辺りを包み込む。
それは、絵に書いたような美青年達だった。
なのに……自分は墓から這い出てきたゾンビ。全部が腐ってドロドロだ。
そんな橘先生と一緒にいる成宮先生を見ているうちに、段々感じるようになった危機感。その思いは日に日に強くなり、どんどん不安が大きくなってくる。
成宮先生の心変わりが怖くて仕方ない。
いつか、俺なんか捨てられちゃうんじゃないかって。
心は目に見えないから、形に表せないから。
だから、怖くて不安で仕方なかった……。
ともだちにシェアしよう!