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野良猫みたいな恋⑧

 鏡を見て溜息をつく。 「もう……ひでぇ顔だ……」  俺は橘先生とは全く反対のタイプだ。  背は高くないし、手足は短い。しかもThe 普通系男子。とりえも何もない男子。  向こうがフランス人形なら、俺はこけし。  よくもまぁ成宮先生は、こんな俺なんかと付き合ってるなって思う。 「完敗だ……」  俺はそのままグズグズと床に座り込んだ。  目を閉じると、楽しそうに笑う2人の様子が思い出される。  一時期は期待の新人として、この小児科病棟を引っ張っていたであろう2人。そんな橘先生を、成宮先生は信頼していることが良くわかる。何かと橘先生を頼り、重要な仕事を安心して任せているから。  俺が赤ちゃんの点滴に四苦八苦しているうちに、あちらは難しいとされている手術をサラりとこなしていまう。  そう考えると、 「月とスッポンなんだよな…」  俺がこの病棟から居なくなったとしても、絶対に誰も困らない。  きっと成宮先生の元を去ったとしても、彼は絶対に悲しまないはずだ。逆に、邪魔者が居なくなったってせいせいすることだろう。  それにおかしいじゃないか。いくら昔いた病棟が忙しいと言っても、自分の職場を放り出して駆け付けるなんて……。 「絶対に橘先生には何か裏がある」  そう思えてならなかった。  窓の外を見れば雨がシトシト降り続いている。  洗濯物は乾かないし、食べ物だって腐りやすい。そんな秋空を見て、更に憂鬱になった。 ◇◆◇◆  トボトボとナースステーションに行けば、成宮先生が俺の腕を引いて人気のない処置室へと連れて行った。  眉間に皺を寄せて、顔を引き攣らせている。昨日LINEにも着信にも一切応答しなかった俺に、腹をたてているのかもしれない。 「おい、葵」 「……はい……」 「お前、昨日家に帰ったのか?」 「一応帰りました」 「一応?」  俺の言葉に、ピクッと成宮先生が反応する。 「髪だってビショビショだし。誰かと一緒にいたんじゃねぇだろうな?」 「一緒に寝てくれた優しい人はいました」  ふと、ゲームセンターで取ってきたフワフワのぬいぐるみ達を思い出す。柔らかくて温かくて……一緒に寝ていて気持ち良かった。 「お前、彼氏が当直の日に堂々と浮気かよ?」 「へ?浮気?」 「違うのかよ?最近何だかお前変だし」  想像もしていなかった言葉に、俺は目を見開いた。  俺が浮気、浮気……あまりにも突飛な発想に呆然と成宮先生を見つめれば、大きな溜息をつかれてしまう。 「その反応じゃ、浮気はしてないみたいだな?」 「浮気なんて、する勇気はありません」 「あ、そ……」  散々問いただしておいたくせに、興味なさそうに呟いた。

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