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教室からベランダへと出ると、澄み渡った空と心地よい風が朱音を包み込んだ。
とってもいい天気だ。これならいい色を出すだろう。
伸びをした朱音は、ポケットから携帯端末を取り出すと、目線の高さに上げた。
スマホカバーの穴に通したストラップには、ハートの半分とも思える紫のガラスを付けており、光に照らされて、より透明に輝いていた。
「やっぱり、しおんにぃのは綺麗だなぁ·····」
感嘆を漏らすが、同時に『しおんにぃ』の名を口にした瞬間に、寂しさを覚えた。
この持ち主であった、二歳年上の『しおんにぃ』は、片手で数えられるぐらいの時に、「朱音のそばにいられない」と言い残して、突然消えた。
『しおんにぃ』はどこに行ったのかと親に問い詰めたことがあったが、深刻そうな顔で言いづらそうにしていたため、子どもながらに言ってはいけないことなのだと察し、その話題はそれっきりとなり、その後、『しおんにぃ』がいない寂しさと悲しさから熱を出し、寝込んだ。
それからというもの、一人で行方の分からない『しおんにぃ』を捜し続けていたものの、一向に見つかることもなく、時間だけが過ぎていき、気づけば高校生になっていた。
手がかりは『しおんにぃ』という名と、このストラップだけで、他は何にも分からないのだから。
一人でどうこうできる問題ではなかったが、頼れる人もいなかったし、何よりもいても立ってもいられなかった。
けれども、何にも成果を上げられず、こうして唯一の『しおんにぃ』の物であった物を眺めては、たそがれていた。
しかし。こうも捜しても見つからないと思うと、不意に思ってしまうのは、不幸なこと。
例えば、事故か病気。
「·····っ、なわけねー、なわけねー·····」
思いきり首を振って、それらの考えを打ち消した。
そんな悲しい結末になってたまるか。
『しおんにぃ』はいつも元気でいたから、大きくなっても病気一つもせずにいるはず。
「いや、なーんか、熱を出したことがあったような·····」
紫色のストラップから目を離し、空を見上げる。
ゆっくりと流れていく雲を何となく見つめていると、小さく、あっと声を上げた。
いつの頃か曖昧であったが、熱を出したことがあった。
とても苦しそうに息を吐き、頬を赤くして、ベッドに寝ていた。
いつものように遊んでもらおうとしていたが、親に全力で止められたことにより酷く泣いて、そして『しおんにぃ』の姿を見て、また泣いて。
『しおんにぃ』の額に冷えピタが貼られていたことから、それすれば元気になるかもと思い至り、顔いっぱいに貼って満足気に鼻息を荒くしていたところに、「何しているの!」と親にとてつもなく怒られ、熱を出している間は、『しおんにぃ』に会わせないようにさせられた。
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