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「·····さっきのは悪かった。とんでもなくダサいところを見せてしまった」 「まあ、いいんだけどさ。急に泣き出すのは、マジでびっくりしたけどな」 「悪い·····」 二時限目が終わり、三時限目が移動教室であったため、教材を持って廊下を歩いている最中、隣の大野に先ほどの出来事を、目を逸らし、頬を赤らめながら小さな声で謝罪した。 大野に言われるまで自分が泣いている事に気づかなかった。それほどまでに『しおんにぃ』に会いたいと切に思っているようで、自覚をせざるを得ない感情に引いてしまった。 本当に一途に恋する乙女のようで、この長年の想いは恋にも似た感情なのではと思ってしまう。 いやいや。そんなはずは。 大野に感化されてそう思うだけだ。『しおんにぃ』とは兄弟なのだから、絶対にそうとも思わない。絶対に。 「しおんにぃ·····」 悲しそうに呟き、周りの生徒達の騒ぎ声の中、大野が言った。 「··········『しおんにぃ』の話をずーーーっとしてたら、いつか会えるんじゃね? ほら、口に出したら願いが叶うって言うじゃん? 有言実行よ。さっきみたいに言ってみ? だけど、急に泣くの禁止な」 「·····分かっとるがな」 冗談めかして言う大野に、慰められているなと思いつつ、さっきの話の続きでもしようか、けど、あの話もしたいと思考を巡らせようと、視線をさ迷わせた時。 「····················ぇ·····」 「どうした、朱音」 「いや··········え·····?」 渡り廊下に差し掛かり、何となく窓の方にいる男子生徒に視線を向けると、自然と立ち止まってしまった。 上履きの色からして三年生らしい、その男子生徒が、窓に顔を向け、寄りかかりながら誰かに電話をしている姿がそこにあった。 なんら不思議ではないその光景に、朱音の目に映っているのは、その携帯端末からぶら下がっているストラップ。 ハートが半分に欠けたような、不格好なムラのある朱色のデザインに朱音は覚えがあった。 それは昔、親と『しおんにぃ』と一緒に海に遊びに行った時のこと。 そこでいわゆるシーグラスと呼ばれる物が落ちていたことにより、それを使って、ストラップにしようということになった。 そのストラップが別れ際、『しおんにぃ』と交換した物が、その男子生徒の携帯端末に付けられている。 と、するとあれは。 見間違えるはずがない。あれは。あの人は。 「しおんにぃー!!!」 「おわっ!」 その男子生徒に向かって助走をつけ、その勢いで背中に飛びつく。

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