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第1話 蓉
ひとり暮らしをしている部屋のテーブルはおしゃれで丸い。
おしゃれ丸テーブルは、カツ丼とカップ麺を置くだけで幅をとってしまい、この後、続けて食べようと思っているのり弁二つまでを置く面積は無い。
何でカッコつけておしゃれで丸いテーブルを選んでしまったんだ。使い勝手が悪い。四角くて、実用的なテーブルにすればよかった…と、おしゃれ丸テーブルの購入を後悔する。
カツ丼、カップ麺、特製のり弁二つ、あとできれば唐揚げと海老フライ、そして健康を考えてサラダも必要だ。そうだ、箸休めにサンドウィッチも食べよう。サンドウィッチは二つだな…と、これくらいの食料全て置けるテーブルがよかった。だって、食べようと思えば一食分はそれくらい余裕で食べるんだから。
だがよくよく冷静になって考えると、その量を一度に全て置くには、かなり大きなテーブルが必要だろう。丸とか四角とかの問題じゃない。それに、ワンルームのこの部屋に、そんな大きなテーブルを置くと圧迫感があるだろう。
テーブルの大きさを、悶々と考えながらカツ丼とカップ麺を食べている芦野 蓉 は、ただいま自宅待機中の身である。会社から言い渡された通り、今は大人しくワンルームの自宅に引きこもっていた。
自宅待機といっても、会社都合の業務命令として、いわゆる出勤停止である。
実家を出て、この部屋に引っ越して来たのは先週であった。30歳になったのをキッカケにひとり暮らしをすることを決めた。
これからはひとりで悠々自適に楽しく暮らしていこうと、ワクワクしていた矢先に、ある問題に巻き込まれてしまい自宅待機の身となる。
蓉は、カツ丼とカップ麺を食べ終わり、キッチンに置いてあった特製のり弁二つを手にし、おしゃれ丸テーブルの前に座り直す。
ワンルームに響くくらいの明るい声で「いっただきまーす」と言いながら特製のり弁二つを食べ始めた。
ひとり暮らしを始めて早々、会社から自宅待機をくらった為、誰かと話をすることはなくなった。
『いただきます』『ごちそうさまでした』くらい口に出して言わないと、全く声を発しないまま一日が終わることになる。喋ることを忘れてしまいそうになるほど、長い時間はあった。
それでも、念願のひとり暮らしは快適だ。
蓉にはひとり暮らしをする理由がある。それは、三大欲求が人一倍強いことだった。
人間の三大欲求は、食欲、睡眠欲、性欲といわれている。
一番強い欲求は睡眠欲で、次に食欲、最後に性欲の順となるのが一般的らしい。
しかし蓉の場合、三大欲求のそれぞれが同じくらい強い欲求としていた。
仕事をしていれば、規則の中で生活をするため、必然的に欲求は最低限に抑えられ、休日だけ欲求を解放すればよかったのが、今は自宅待機中の身、三大欲求が全解放、24時間フル稼働している。
良かったのか悪かったのか、今は時間だけはあるため、性欲、寝る、食うの無限ループに陥っていた。
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