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第37話 海斗
一過性の熱だろう。だけど、なかなか社内の熱が下がってくれないように思う。
この一週間、男女問わずいろんな人に話しかけられ誘われてきた。
ほっといて欲しい、少し集中して仕事をさせて欲しいと思うも、寄ってくる皆を邪険に出来ない自分の弱さもあり、部長が言うような愛想を自然と振り撒いてしまう。
それに、週末が近づきいよいよ明日実家に帰ることになっていた。母さんに連絡をすると、お昼を作って待ってるねと言われる。
海斗の好きなハンバーグを作っておくと言われたが、ハンバーグが好きなのは陸翔の方だ。海斗は特に好きではない。そんなどうでもいいことさえも伝えられず、うんと軽く返事をしてしまった。
少し残業して家に帰ると、蓉の部屋から気配がしていた。既に帰宅しているようだった。
メッセージアプリを開くと、既に帰宅していると蓉からコメントが届いていた。一度着替えて、食事の準備をしてからそっちに迎えにいくよと返信をして、海斗は自宅の方のドアを開ける。
暗い部屋に電気をつけ、無理矢理明るくしてみると、少しだけ気分は晴れるような気がする。
スーツのまま冷蔵庫を開け、何を作ろうかと考えていると、ガチャガチャと鍵を開ける音が玄関から聞こえ、振り向くと蓉がドアから顔を出し入ってきた。
「おーっ、おかえり。案外早かったな。忙しかっただろ?」
蓉はそう言うと、ひょいひょいと部屋に上がり込み、ソファにドカッと座っている。
「蓉さん、お腹空いてる?今、何か作るよ。ちょっとだけ待てる?」
「うーん?お前、腹減ってるのか?」
ソファから立ち上がり冷蔵庫を開けて突っ立ってる海斗のそばに蓉が来た。
「お腹空いてない?どうしたの?」
いつもと違う蓉に海斗はどうしたのかと、首を傾げる。
「ご飯はいいよ。後でカップ麺でも一緒に食べようぜ。たまにはいいだろ、俺が作ってやるよ」
蓉は、海斗が覗いていた冷蔵庫をパタンと閉めると海斗の手を引き、そのままベッドまで連れていく。スーツ姿のままだったが、トンっとベッドに押し倒された。
「えっ?蓉さん?性欲の方?だったらあっちのベッドの方がいい?準備してすぐに行くよ?」
「お前はさ…ちょっと黙ってろよ。いつも俺のことばっかり考えてくれてるのは嬉しいよ?だけどな、俺だってお前のこと考えてんだよ。毎日さ一緒にいたって嫌になるくらい、いつも考えてる。だから、今のお前がどんなこと考えてるか、そんなのわかるんだからな」
ベッドに仰向けにさせられ、腹の上に座られた。上から蓉に抱きしめられ、キスをされたから、咄嗟に腰を抱きしめてしまった。
「ちょっと…待って、スーツ脱がして」
「ダメ、俺が脱がす。勝手に脱いじゃダメだから。このままキスさせてくれよ?それで…?なぁ、どうした。モヤモヤしたのは終わったか?」
「えっ…えっ、なに?」
「終わってないんだな?だよなぁ…各方面からチヤホヤされてムカついてるんだろ。今までと違って、手のひら返したようなことしやがってって」
あははと、キスをしながら蓉は笑っている。上に乗っている蓉の身体の重みが心地いい。ぎゅっと蓉を抱きしめると安心する。
蓉を抱きしめながら、大きなため息を吐き出すと、溜まってる言葉が後から出てくる。
「だってさ…人の顔色伺う人多いし、誰かが助けてくれるって勝手に思ってる人もいるみたいだし。で、俺にそんなこと期待する声も多くなったからモヤモヤする…」
あんなにキスはするなとか、必要ないと以前は言っていた蓉だが、今は自ら顔中にキスをしてくれるようになった。
首筋から耳にかけて蓉にキスをされると、ゾクゾクとしてくる。
「みんな好きだよな、そういうの。スーパーマンの出現を夢見るっていうか。現実にはありえないことが起こって欲しいって思ってるわりには、具体的にこうして欲しいっていうのは無いんだよな」
クククと笑いながら蓉に言われる。だから
抱きしめながら、海斗も蓉にキスをする。蓉が、こうもキスに積極的なのは珍しい。
「俺にどうにかして欲しいって…なんだよそれって思うよ?だけどなぁ…俺はもう覚悟を決めたんだ。こんなふうにモヤモヤしてばっかりなのは、もう嫌だからさ」
今まで蓉とはそんな話をしたことはなかった。多分、蓉にはわかっている。海斗の覚悟を。それに、何故か今日は素直に気持ちを話してしまう。
「お前がそんなの背負うことはないと思ってるけど、もしも、お前がそうなりたいって言ったら俺は全力で支えるよ。それくらいの覚悟は俺はずっと前からあるんだ」
「すごいなぁ…蓉さん。いつの間にわかるようになったの?俺はずっと悩んでたのにさ、今まで。このまま気づかないフリしちゃおうかな…とかも思った」
「おい、お前の馬鹿正直はどこいった。俺が一番好きな海斗だろ?でも…お前は気づかないフリなんて、到底出来ないだろうけどな」
ぎゅっと蓉を抱きしめてしまった。所詮モヤモヤなんてその程度だ。蓉の前ではどうでもよくなることだ。
「じゃあ…あっちの部屋行く?あっ、明日は蓉さん休日出勤するんでしょ?だから、マズイ?負担はかけられないよね?」
「明日のこと考えられるなんて余裕だな」
腹の上に座り直した蓉はフフフと笑っていた。そのまま笑っている蓉に、シャツのボタンを外された。
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