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第6話 メンタル崩壊!? side諒太郎

 色々あって、僕は千夏くんと付き合えることになった。  それだけでも天にも昇れそうなほどに幸せなのに、今日は千夏くんちで夏休みの課題をやろうなんて誘われて、僕は朝からずっとそわそわ落ち着かない。  なんでも、千夏くんは部活が忙しすぎてほぼ課題に手をつけることができていないらしい。僕という監視役がいれば真面目にやるだろうから、俺を見張りにきてくれ——とLINEで頼まれ、僕は快くOKと返事をしたのだが……。  ぼうっとしながら塾用のトートバックにテキストや参考書を詰め込んでいると、やはり考えてしまう。  千夏くんの部屋でふたりきり。  密室でふたりきり。  しかも僕らは付き合いたて……。 「……どうしよう、ちょっとくらい千夏くんに触ってもいいのかな」  手ぐらい握ってもいいのだろうか。勉強しながらちょっと寄り添ってみたりとか、きっかけさえあれば、キスくらいは……。 「い、いやいや。いやいやいや……付き合ってまだ数日しか経ってないのに、いきなりそんなことしたらダメだよな。……でも」  ——告白してくれた日の千夏くん、ちょっとキスしたそうな顔してた。してもいいってこと……? 「だ、だめだだめだ!! 今日は夏休みの宿題を終えるためにふたりで会うんだ!! 僕も浮かれてあんまり勉強できてないし、普通にやばいし!!」  ぐるぐるもわもわとピンク色の考え事がとまらない。机の上のものを手当たり次第、無意識に詰め込み続けていたトートバックはありえないほどに膨れていた。……僕の細身のデニムパンツの股座と、同じくらいに。  僕は天を仰いでため息をつき、火照った頬を両手で冷やす。 「……一回出してから行かなきゃ」  ぽつりと呟き、僕は勃ちすぎて痛む股間をかばいながらのろのろと立ち上がった。    + 「じゃあ俺何か飲み物持ってくるから、待ってて。シュワシュワ系とお茶系、どっちがいい?」 「えーと、シュワシュワ系かな」 「オッケー」  爽やかに僕を出迎えてさらっと自室に案内してくれた千夏くんは、今日も今日とて頼れるかっこいい兄貴って感じだった。僕より背は低いし細身だけど、僕みたいに悶々ドキドキして挙動不審になったりしないところとかは、やっぱり年上の余裕があってかっこいいなぁと思う。  ——はぁ……ガキっぽいって思われて振られたりしないように、僕も頑張らないといけないなぁ……。  朝から妄想だけで何回もひとりでしてしまった自分が恥ずかしくてたまらない。おかげで頭は冷えたけど、出迎えてくれた千夏くんの笑顔が眩しくて、可愛くて、僕の胸は改めてのようにドキドキバクバク高鳴っている。 「ふう……ダメだ。大学受験用の参考書でも眺めて気持ちを鎮めよう」  高一の僕にはまだまだ難しすぎる英誠大学の赤本は、教育熱心な親が僕のためといって買い与えたもの。内容はさすがに難しすぎるけれど、読み物としては刺激的な一冊だ。  ぱんぱんに膨らんだトートバックから赤本を引っ張り出しローテーブルの上に広げていると、ふと壁際に据えられた千夏くんの机に目が留まった。  ごちゃごちゃと教科書やノートやタブレットが置かれた黒いスチールデスクの上に、ひときわ鮮やかな色彩を放っている小瓶があった。  淡いブルーのガラス小瓶の中に、ピンク色っぽい金平糖がコロコロと入っている。  男子高校生が選んだとは思えないような可愛らしいお菓子だ。きっとクラスの女子か誰かからもらったお土産かなにかだろう。  僕は立ち上がり、何気なくその小瓶をつまみ上げてみた。 「金平糖かぁ。古風なお土産だなぁ」  千夏くんのことだ。女の子からこういうものをもらったとき、きっと満面の爽やか笑顔で「嬉しい、ありがと!」とお礼を言うのだろう。  そして相手の女の子は、爽やかかっこいい千夏くんの笑顔にメロメロになってしまうに違いない——……そんなアオハルな光景を自然と想像できてしまう。  千夏くんがあちこちであの笑顔を振り撒いている。それは全然いいんだけど、いいんだけど……何となく面白くない気持ちも湧いてくる。千夏くんの笑顔は僕だけに向いていてほしいのに、現実は決して思い通りにはならない。  ——わかってる。子どもじみた独占欲だって。  小瓶の蓋を開け、手のひらにころりと一粒の金平糖を転がす。  どこぞの女子高生が千夏くんに贈ったであろう可愛らしいお菓子を、僕は口に放り込み、がりりと奥歯で噛み砕いた。想像通りの甘さが、僕のちっぽけな嫉妬心を紛らわせるように、ねっとりと舌の上いっぱいに広がっていく。  とその時、がちゃりとドアが開いて千夏くんが戻ってきた。  仰天した僕は慌てて小瓶を机の上に戻し、取り繕うように笑顔を浮かべた。 「あっ、散らかってんだから、あんま机の上見んなって」 「あ……ああ、ごめん。ていうか、ほんとに散らかってるね。だから勉強に集中できないんだ」 「う、うるさいなぁ。だから学校の課題がやばいことになってんだよ」 「なるほどね。僕でよければ手伝うよ?」 「いやいや、年下のくせになに言ってんだよ。見張りだけでいいよ、自力でなんとかするし!」  気軽なやり取りをしながらローテーブルに戻ると、千夏くんが僕の前に飲み物を置いてくれた。よく冷えた炭酸ドリンクで満たされたグラスの中から、パチパチと泡が弾ける音が聞こえてくる。 「夏休み部活半端なくて、めっちゃ焼けた」とか「夕方に外周とかやらされんだけど、それでも暑いのなんのってー」と、ラグマットに足を投げ出し炭酸飲料をぐびぐび飲みながら、千夏くんはいつになく早口で部活のぼやきを喋っている。  ——? なんか緊張してる……?   どことなく口調に落ち着きのなさを感じ取り、僕はじっと千夏くんを見つめた。  ぺらぺらと取り止めのないことを喋りながら俯きがちに高校の課題を広げる千夏くんの頬はほんのりと赤いし、なんとなく目も潤んでいるように見える。  そして千夏くんの頭上には、彼の頬と同じくらいピンク色のモヤがふわふわと浮かびあがっていて——…………って、なにこれ。 「……え? ん? んん?」 「ん? どうした?」 「え、いや、あの……これ」 『ぁ、あぁん、やめろよぉ……ッ、かだい、おわんない……、んっ♡』 『課題なんてする気なかったくせに。僕とこういうことしたくて、部屋に呼んだんでしょ?』 『ちが……っ、そんなつもり、ァっ、あん、ぁ……ッ♡』 『なに? 言いたいことがあるならきちんと説明してみなよ』 『じゃ、抜けよぉっ……ちんぽ抜いてくんなきゃ、しぇつめいなんて、でき、ない……ぁっ、あ♡』  ——えぇえええ……!!???  ピンク色のモヤの中には、僕の膝にまたがって上下に弾む千夏くんの姿がある。  今まさに僕が座っているラグマットの上で、ハーフパンツだけを脱いだ千夏くんが、僕の勃起したそれをぐっぽりと根元まで呑み込みながらいやらしい声をあげている……!? 『抜いて欲しいなら自分で抜けばいいだろ? 千夏くんが勝手に勃たせて、僕の上に乗ってきたんだ』 『ん、んっ……そ、だけど……っ、ぁ、あん、も……イキそ……っ♡』 『ひとりで気持ちよくなって、勝手にイくつもり? この僕をオナホ扱いなんて、そんなの許さないよ』 『あぅっ……!』  見る間に体勢が逆転し、モヤの中の僕はペニスを嵌めたまま千夏くんを器用にラグマットの上に押し倒した。  そして真上からぐっぽぐっぽといやらしい音をあえてのように響かせながら千夏くんを突きまくり、自分の顔とは思えないほど雄々しい笑みを浮かべて舌なめずりをしている。 『うわぁ、いい眺め。千夏くんの恥ずかしいところ、全部丸見えだよ』 『や、ぁん、ばか、こんなかっこ……っ、ァん、ああっ……♡』 『あぁ、気持ちいいなぁ……ねぇ、このまま中に出しちゃおうか?』 『ん、うん、だして、なか、いっぱい……っ♡ おれんなかで、いって……♡』 『ったく……可愛いこと言っちゃって。……じゃあガン突きして、そのまま中出しするからね』 『うん……っ♡』  僕にはとうてい出来なさそうな猛々しいピストンや余裕たっぷりの言葉責めに、僕は呆気に取られてしまう。 だというのに、自分から腰を突き出し、目の奥にハートを浮かべた千夏くんの蕩け顔を目の当たりにして、ずくずくとペニスは痛いほどに疼いていた。  ——な、な、なんなんだこれ……!? 千夏くんで妄想しすぎて、僕はおかしくなっちゃったのか……!?   突然目の前で繰り広げられはじめた痴態に興奮もさせられるが、同時に僕は大いに混乱していた。  だって、だってこんなものが見えてしまうなんて普通じゃない、異常だ。  そうだ、エッチなことがしたいのに我慢しすぎて、きっと僕のメンタルは壊れてしまったんだ……! 「ど、どうしよう……千夏くん」 「えっ? 何が? てかどうしたの、顔真っ赤じゃん!?」 「あ、あの、僕……どうしたらいい?」  心配そうに僕を見つめる千夏くんの頭上では、『イクよ、出すよ……っ!! こぼさず全部受け止めて……っ』とペニスを千夏くんに捩じ込みながら腰を震わせる僕と、『ぁんん……♡ ぅあ、あついの、いっぱいでてる……っ♡』と、いつか見たエロ漫画さながらにトロ〜ンとした表情を浮かべた千夏くんの姿がある……。  僕は混乱するあまりがばりと両手で顔を覆って、背後にあるベッドにくったりともたれかかった。 「諒太郎? 大丈夫か? 熱中症?」 「……う、う……うん、それに近いかも……」 「ど、どうしよ。部屋暑い? すぐ冷たいもんもってくるから……って、え?」  ふと千夏くんが黙り込んだのが気になって、僕はゆるゆると顔から手を外してみた。  千夏くんは、僕の股間のあたりをまっすぐに見下ろしている。  その視線の先では、股座がパンパンに膨れ上がったベージュのチノパンがあり——……僕は大慌てで膝を抱えて顔を埋めた。  ——う、うわぁあああああ、恥ずかしいっ……!! 恥ずかしいよ……っ!! 「諒太郎、あの……」 「ち、違うんだ!! あ、あの。外が暑かったから……だからこんなっ……」 「……触ってもいい?」 「……………………え?」  涙目になりながらぎょっとして顔を上げると、千夏くんは妄想の中の千夏くんと同じくらい頬を赤くして僕を見つめていた。 「そんなんじゃ勉強集中できないだろうしさ……その……お、俺が抜いてやろっか?」 「……え? ち、千夏くんが……?」 「お、おまえ真面目だしさ〜、こういうこと慣れてないんだろ? い……い、いちおう、人生の先輩として、抜き方教えてやってもいいかなって、」 「お、教えて……!!」  あまりにも魅惑的な誘い文句すぎて、食い気味に返事をしてしまった。  困っているのは事実だ。だって僕は、性欲をコントロールできずに妄想を可視化できてしまうほどメンタルがやられている。千夏くんに解消方法を教えてもらえばきっと、おかしな妄想を見なくなるに違いない……! 「教えてほしいな……。たしかに僕、最近すごく困ってて……」 「だ、だよな……。こんなにしちゃってんだもん」 「ぁっ……!」 「わ、硬……すご……」  つう……と指先で淡く撫でられるだけで、思わず射精しそうになってしまうほど気持ちがよかった。  このまま触られてしまったらどういうことになってしまうのか想像に難くはないけれど、千夏くんはきっとそんな僕を馬鹿にはしないだろう。教えてくれるというのだから、素直に甘えればいいのだ。 「はぁ……、はぁ……千夏くん……ねぇ、早く教えて? 苦しいな……」 「ん……、まかしとけ。すぐ出してやるからな」 「うん……っ」  そうして僕は千夏くん流の自慰のやり方を、手取り足取り教えてもらった。  さらにどさくさに紛れてねだったら、ぎこちなくも優しいキスまでしてもらえた。  そのキスでうっかり火がついて、僕らはそのまま濃厚に舌を絡めたり、昂ったペニスを擦り合わせたり、ひとまとめにして扱いたりと抜きあいっこをした。  勉強に手をつける余裕もなく、部屋が暗くなるまで、時間を忘れてお互いの身体を探り合ったのだった。  ふと我に返ったとき、千夏くんは「……やべ、課題ぜんぜん終わってねーや……」と青い顔をしていたけれど、夏の終わりに恋人らしいことができて、僕はとても幸せだった。(もちろん、千夏くんの課題が終わるまでスパルタで手伝った)  妄想の中の僕がやっていたような余裕あるエッチができるようになるまで、あと何年かかるだろう?   おしまい♡

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