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後編
野外で俺を抱くわけにいかない。でも、屋敷まで待てない……と、神楽坂が苦渋の決断で選んだのが、やたらとリゾート感満載のラブホテルだった。
俺はどっちでもよかったけど、職業病が出るのか、神楽坂としては野外は絶対にダメらしい。
一見、シティホテルのようにも見えるラブホテルは特有のギラギラした感じはなく、落ち着いた雰囲気だった。部屋の内装もモダンで、神楽坂が選びそうだ。
けれど、部屋に入った途端に視界に入ったシースルーのバスルームに目を奪われていたら、神楽坂に唇を塞がれた。
そのまま、部屋のセンターに置かれたベッドに押し倒され、お互いに汗だくのまま浴衣を脱がし合った。
シャワーも浴びず、高ぶった感情をぶつけ合うようにくちづけを交わしていたら、少し前に感じた複雑な気持ちはいつの間にかすっかり消え去っていた。
「んっ……あぁ、指っ……もう、いいから」
前戯も早々に、早く繋がりたくて神楽坂の腕を掴んで懇願すると、「まだダメです」と返された。
こういう時はやたらとしつこくて、昔から変わらない。
「梨人様……っ……気持ち、いいですか?」
「い、いいっ……あぁっ……んっ」
言葉責めで焦らされ、挿入する時には限界を超えてることも少なくない。
今夜は余計に我慢できない気がして、早く挿れて欲しかった。なのに、後ろをしつこいくらいに慣らされ続けている。
「か、ぐら……ざか……っ……もう、いいだろ」
「まだ……っ、まだ……です……」
そう言って、神楽坂が指を引き抜くと次にヌルッとした何かが後孔に差し込まれ、それが舌先だと気づく前に、俺は我慢の限界を超えた。
「……あっ……あぁ……もっ……イ……くっ……!」
腰を浮かせ背中をしならせながら自分の腹に白濁を撒き散らすと、いつもより早い射精に、神楽坂は驚いたように顔を上げる。
「大丈夫ですかっ」
「はぁっ……はぁっ……だ、大丈夫じゃねーよ!」
こんなに身体が敏感なのが恥ずかしくて、仰向けに寝ていた身体を起こして神楽坂の頭をひっぱたいた。
「何するんですか。敏感な梨人様も愛してますのでご安心ください」
「な、何言ってんだよっ! お前がしつこくいつまでも舐め回すのが悪いんだろ!」
「あぁ、そうですね。わたくしの舌で感じてくださるのは嬉しい限りです」
キレた俺にも、神楽坂は相変わらずマイペースだ。ドヤ顔で言いながら、太腿に置いた手で厭らしく撫でられ、もう一発殴りたくなった。
「いいからっ……もう、早く……っ……挿れろ!」
怒りながらも身体はそれにさえ感じてしまう。お預けをくらったような、俺だけが余裕がない状態がムカつく。そんな俺に、調子に乗った神楽坂が、まためんどくさいことを言い出した。
「欲しかったら、欲しいと言ってください」
ベッドの上ではコイツが主導権を握ることが多く、いつの間にかこうして主従関係が逆転していくのだ。
不本意ながらも快楽には勝てない。結局、いつも言うことを聞いてしまう。
「……欲しい……早く……挿れろ……」
「では、自分で挿れて」
神楽坂が仰向けに寝ると、薬指の指輪をなぞりながら手を取り自分に跨るように誘う。その手つきが、また妙に色っぽい。
そのまま、へそに付くくらいに反り返り勃起した自身を見せつけながら「ほら……」と手を引き寄せられた。
「む、無理……」
「大丈夫です、跨ったら腰を浮かせて……そう亀頭を後孔に合わせて」
指示されるまま神楽坂に跨り試みるも、自分で挿れるのには難易度が高い。
それでも早く繋がりたくて、神楽坂のを握り、数回しごいてから試みた。指で穴を広げるようにすると、入口の皮がめくれて上手く挿っていかない。
「神楽坂っ……」
助けを求めるように名前を呼ぶと、腰を支えていた片方の手が伸びてきて、俺のを徐に扱き出す。
「やっ……あぁ……っん」
「このまま出してもいいですから、力を抜いてください」
扱く手を止めないままに、もう片方の手で自身を支えるとゆっくり腰を下ろすように言われた。
「……はぁ……っ……んっ……」
「梨人様……っ……」
「なか……っ……」
「ええ、上手ですよ……っ……でも、わたくしも……限界ですっ」
徐々に深く中へと挿っていく感覚と自身を扱かれ続けているのとで、腰は自然と揺れ始める。それを見計らうよう、神楽坂がグッと腰を押し付けてきた。
「……ん、あっ……あぁ……ま、て……まだっ……」
「もう……っ……待てませんっ……」
一気に根元までグズんと埋まり、苦しさと快感で一瞬気が遠くなる。
ずっぽりと突き刺さった神楽坂のモノが中で跳ね、そのタイミングで俺は軽くイってしまった。
「さぁ、これからが本番です……出し入れ……できますか?」
無理に決まってるだろ。そう口にする前に二、三度突き上げられ、動きが止まった。
「はぁ……っ、な、なんだよ、動かないの?」
「そういえば、この部屋のシースルーバスルーム見て、思い出してたんじゃないですか?」
「何を」
「沖縄旅行ですよ」
ひょんなことから沖縄旅行に行ったホテルの客室がシースルーバスルームで、そこでも事に及んだ。ちょっとだけ脳裏に過ぎったけど、あえて口にはしなかった……のに。
「何で今言うんだよ」
「他意はございません。あの時の梨人様の嫉妬も可愛かったな……と、思い出したので、つい」
「ついじゃねぇーよ。うるせぇな、余計なこと言ってると抜くぞ」
「……っ……抜けませんよ。というか……離しませんっ……離すわけない……じゃないですか」
下からの突き上げと共に、荒い呼吸の神楽坂がうわ言のように呟くと、不意に腕を掴まれる。そのまま引き寄せられ、神楽坂の方へ倒れ込むと唇を塞がれた。
「……ん、ふっ……」
背中を折り曲げ、舌先を絡めながら熱い息を吐き出し互いにくちづけ合う。その間も神楽坂からの突き上げは続き、気持ちよさから俺も腰を揺らしながら応えた。
「気持ちいいですかっ……腰、揺れてますね……っ……厭らしい」
「いいっ……よ……っ……気持ちいい……もっと……奥っ」
腰に添えられた神楽坂の左手に、自分の右手を重ね、絡め、懇願するとギュッと握り返され、出し入れのスピードが上がる。
「いつもと……っ……違うっ……場所をノックして……あげますねっ……」
神楽坂の腰つきが今までとは変わる。ギリギリまで引き抜くように俺の腰を上げさせて、一気に落とす。左手が肉に食い込むくらいに力を入れ、上下するように促すと奥の更に奥へと突き刺さった。
「あぁ……んっ……すごっ……ふと……いっ……」
身体が跳ねるくらいの勢いに戸惑いつつも、気持ちよさに自分からも腰を上下に揺らすと神楽坂と一瞬目が合う。
「……どうですか、天国でしょう?」
「あぁ……きもちよく……て……んっ……む、り……もっと……突いてっ……なかっ……あっ……おまえので……」
「ええ……たっぷりとっ……突いて……差し上げますっ……」
お互いに、タイミングを合わせるように腰を揺らし登り詰め、限界が近くなるにつれ、吐息とベッドが軋む音が大きくなった。
「かぐらざか……す、き……っ……」
「わたくしも……好きですっ……愛してます……っ……急に締め付けないで……っ」
「だ、だって……ん、あぁっ……」
「可愛いな……たまんないっ……」
興奮が最高潮になる時、たまに敬語じゃなくて、あの頃のようなタメ口になる。本人は無意識らしいけど、それが唯一、余裕のない神楽坂を見れているようで嬉しくて、俺も欲情してしまう。
黒髪を振り乱し、汗を滲ませながら火照った身体を揺らす姿はシキを思い出させ、いい男に拍車がかかったように見えた。
「お前だって……っ……いい男だ……」
鎖骨に手を置き、浮き出た血管をなぞると俺の中に埋まる熱がググッと質量を増した気がした。すごい圧迫感に動けなくなってしまうと、神楽坂は厭らしい腰つきのまま出し入れのスピードを上げてくる。
「も、ダメ……っ……イ……くっ……神楽坂……っ……」
額に汗が滲み、下を向いた拍子にぽたりと滴り落ち、それを神楽坂の舌が厭らしく受け止める。ゴクリと音が聞こえそうに喉仏を上下させながら飲み込むと、美味しいと呟いた。
「飲むなよ、変態……」
「梨人様の汗は甘い味がします」
「はぁ? 変態と結婚した覚えはないんだが」
「好きなクセによく言いますよ。梨人様のここ硬いままですよ」
異常な行為に悪態をついても、それも十分に興奮材料になってしまうから不思議だ。
そんな俺を試すかのようにグッと腰を突き出すと、電流が走ったかのように身体がビクビクと波打った。
「……ん、もうっ……おまえ……ヤダ……って、あああぁ……っ!」
いつもは当たらない場所を突かれ、快感が身体中を駆け巡り、あっという間に白濁を神楽坂の胸へと吐き出す。
同じタイミングで神楽坂が中で弾けると、じんわりと下腹部が熱くなった。
「……れん……っ」
意識が朦朧とする中、思わず名前を呼んで倒れ込むと自然と唇が合わさり息を乱しながら、激しいくちづけを交わした。
「だ、大丈夫ですか……っ」
「はぁ……っ、はぁ……っ……今日、俺……ダメだ……って、何……また、デカく……っ」
いつも以上に敏感な身体は、いうことを聞いてくれない。神楽坂も興奮がおさまらないのか、すぐに硬さが復活して俺の中でドクドクと波打つ。
「……っ……申し訳ございませんっ……あまりにも、梨人様が可愛くて……もう一回」
「ちょっと……待てっ……ん、あぁ……」
戸惑いながらも身体を開いてしまう俺も大概だ。そんな俺たちの夜は、まだまだ終わりそうもなかった……。
**
結局、騎乗位のままで更に一回、対面座位で一回、正常位で一回と、相変わらずしつこかった。
「なぁ、俺もう一歩も歩けない」
「そうなると思って、宿泊に切り替えました」
「……仕事」
「明日まで夏休みです」
「またそれか……もういい、わかったよ。帰ったら線香花火でもするか。結局、花火も大して見てないし」
「わたくしは必死に理性を働かせ止めたのに、梨人様が厭らしい声で鳴くのが悪いんです」
「俺のせいかよ!」
「ですが、二人きりで花火が観れて嬉しかったです」
「まぁ……そ、うだな」
何がなんでも俺を休ませたい神楽坂。でも、抱き潰されては元もこうもない。
不器用なんだか器用なのかわからないけど、コイツといると飽きない。それに、幸せだ。
「天国に連れてく」と言っていた意味をぼんやりと理解しながら、神楽坂の手を引き寄せそのまま眠りにつく。
「線香花火……」
「明日の夜、二人でやりましょう」
「うん……」
情欲を含まない軽いくちづけが額を掠める。
「梨人様……愛してます。おやすみなさい」
意識が薄れていくなか、耳元で変わらない愛しい声がして……こんな穏やかな時間がずっと続いて欲しいと密かに思い、俺はゆっくりと目を閉じた。
**
次の日……
「なぁ、線香花火ってなに?」
「梨人様……知らないでやりたいと仰ったのですか?」
「名前だけは知ってた。つーか、腰が痛くて椅子にも座れないから仕事できないんだけど」
「あと二、三日は無理なので、仕事はわたくしがなんとかします」
「お前になんとかできないだろ」
「旦那様が色々とご協力してくだいますので、なんとかなります」
「はぁ?」
「梨人様の足腰が立たないので、ご協力をお願いしますとお電話いたしました……それがなにか?」
「お、お前……そのまま言うかよ、普通! 何してたかバレるだろ!」
「大丈夫ですよ。旦那様は寛大な御方です。少しは手加減しろと忠告されただけですので」
「それ絶対にセックスしてたってバレてるだろ……」
「今さら隠すことはありません、愛し合っているのは事実なのですから」
「まぁ……そうだけど」
「今夜は手加減いたします」
「腰が痛いって言ってんのに、ヤるのは確定かよ」
「もちろんです。線香花火はまた後日いたしましょう」
「それ、夏じゃなくて秋になりそうなんだけど……」
END
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