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「⋯⋯朱音。僕のことを想ってくれているのが充分に伝わって、とても嬉しいよ。⋯⋯けど、僕のために涙を流さないで。朱音は笑った顔の方が似合うのだから⋯⋯」
「しおんにぃ⋯⋯」
「ねぇ、⋯⋯僕に笑った顔を見せて?」
一瞬、戸惑うような顔を見せたが、強く目を擦った後、はにかんだ。
突然そのようなことを言われたのもあってか、困った顔にも見えたが、今はそれで充分だった。
「⋯⋯ありがとう。大好きだよ、朱音」
そっと、愛おしげに抱き寄せると、腕の中で「しおんにぃ⋯⋯っ!」と驚愕の声を上げた。
けどもすぐに、「俺も大好き! 大好き大好きー!」と、無邪気に言って、背中に手を回されたのを感じ取り、目を細めた。
本当は唇に口付けたかったが、まだ自分は完治したわけではないため、朱音に伝染 してしまう。
そうではなくても、同じところにいたら伝染しかねないから、そう言った意味で帰って欲しかったが、この温もりを感じていたかったのが正直なところだった。
自分らしさを、小さい頃から考えているが、未だに見出せていない。
けれども、朱音という自分だけを好きでいてくれる守りたい存在がそばにいてくれたら、自分らしさを出せているような気がした。
それに、周りに理解をされなくてもいい。朱音だけが自分のことを理解してくれたら、それでいい。
朝日が照らされる中、心中は少しずつ日が沈む夕暮れのように仄暗くなっていくのを、彼はこの時、自覚をすることはなかった。
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