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しかし、そんなことが通用するわけがないし、ここまで『新倉紫音』という名が浸透しているとは思わなく、世間を甘く見ていたと自分に苛立った。 けれども。この名は一生背負うべきだとも思ったのだ。 自分の生を呪う糧でもあり、そして、今までにする機会がなかった、親への反抗──。 規則正しい寝息を立てる愛しい子を撫でていると、「ん⋯⋯」と声を漏らした。 それから、瞼が震えていると思うと、ゆっくりと開いた。 「⋯⋯んー⋯⋯? しお、⋯⋯にぃ⋯⋯?」 眠たい目を擦りながら、上半身を起こしていた。 「んーっ、やっぱこの体勢は凝るな⋯⋯」と呟いて。 「⋯⋯朱音が無理することじゃないよ。⋯⋯なんなら、帰っても良かったのに」 「そんなことするわけがねーじゃん! 熱が完全に治ったわけじゃないのに、一人にできないって。それに、こういう時は、誰かがいると⋯⋯安心、するんだよ⋯⋯」 目を見開いた。 その言葉に響いたというのもあるが、朱音が急に泣き始めたからだ。 「朱音⋯⋯? どうしたの⋯⋯」 「うぅ⋯⋯っ、しおっん、にぃ⋯⋯が、しおん⋯⋯っ、に⋯⋯」 しゃっくり声を出して、上手く言葉にならないでいる朱音に、「落ち着いてからでいいよ」と頭を撫でた。 そうしているうちに落ち着いてきたようで、「⋯⋯ごめん」と涙声で言ってきた。 「⋯⋯しおんにぃが一人でいるのは、寂しかったはずなのに、誰にもそれが言えなかったと思うと、悲しくなってきて⋯⋯」 そう言っているうちも、瞳を潤ませる恋人に苦笑を漏らした。 昔から無邪気に笑うのと同じくらい、よく泣いていた。 相変わらずの感情がはっきりしている子に対して、自分のことを想って涙を溢れさせているのが愛おしくてたまらない気持ちになった。

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