「⋯⋯⋯」 耳元で聞こえていた雑音が消えると、朱音の穏やかな寝息が聞こえてくる。 あなたらしくない。 頭の中で反響する雑音。 自分らしさって、何なんだろうか。 生真面目そうで、経験が浅いながらも仕事ができそうなマネージャーは、新人俳優である紫音のために、営業を熱心にやってくれていた。 そのおかげで、戦隊モノ以外にも仕事が舞い込んできて、一人暮らしでもやっていけるほどであったし、忙しい毎日を送っていた。 しかし、本名を名乗っているからか、すぐにあの家の子どもだと気づかれてしまうことがあった。 実の親に勘当されてから、音楽関係のものは避けてきたものだから、急にそのようなことをなったことに、世間は驚きを隠せないという建前の、いい話のネタだということだろう、話の渦中が突如として芸能界に入ったことで、面白がって近づいてきた。 話を聞く限り、表では長年のスランプが抜け出せなくなり、ついには病んでしまい、音楽の道を歩ませるのは難しそうだと判断した両親が、自由にやらせようという結論に至った、ということらしい。 『けど、根本的なものは変わらないんだね。どんなことがあっても、ヴァイオリンが好きなことには変わりなくて』 それは、オーディションの志望動機に、戦隊俳優になろうとしたきっかけの、朱音と観ていた戦隊の中で、自分の名と同じ紫色のキャラが武器としてヴァイオリンを使っていた話のことだろう。 公式サイトか、インタビュー記事でも読んだのだろうと思いつつ、そんな浅はかな理由ではないと喉元まで出かかった言葉を飲み込み、代わりに淡々とした口調でこう言った。 『人違いでは？』