慈しみに満ちた眼差しで守りたい恋人の頭を撫でている時、枕元にあった携帯端末から着信音が鳴る。 置いた覚えがないと思いつつ、起こしたくはないと、されど、ゆっくりとした動作で携帯端末を取る。 その際、画面を見てみると、マネージャーからであった。 「もしも──」 『新倉君！ 今どこにいるのっ！』 「どこって⋯⋯家ですが」 こんな口調を荒らげているマネージャーは初めてだと、そんな口調に、かつて親という立場の人に理不尽に怒鳴られたことを思い出してしまい、苦手意識を持ちながらも、朱音と接している時とは違う落ち着き払った口調で返すと、『まだ寝ぼけているのですか』と深いため息が聞こえてきた。 いわく、今日の撮影時間になっても紫音の姿が見えないものだから、どうしたものかと思い、心配してかけてきたのだという。 それをぼんやりと聞きながら、今日は仕事の日だったことを思い出し、詫びと昨日から熱があったことを告げた。 『熱を出してしまうことは仕方ないことです。ですが、そういうことはできる限り早めに連絡してください。報連相です。新倉君のそういう行動が、時に周りに迷惑をかけてしまうのですから』 「⋯⋯はい。すみません」 『あなたは時間前に現場入りをし、スタッフ一人一人に挨拶をするきちんとした子だと思っていたのですが、あなたらしくないことがあるのですね』 あなたらしくない。 それから一言二言文句を添えていたようだが、それらはその言葉で埋め尽くされ、機械的に返事することしかできなかった。 『とにかく、治してください』と言ったマネージャーに一言返事した後、電話を切る。