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9.
重たい瞼を開ける。
見慣れた天井にあるものに対し、小さく笑っていると、すぐ隣から心地よい声が聞こえてきた。
見るとそこには、ベッドの縁に腕を枕にして眠る、出会った瞬間から好きになった、この世でもっとも愛しい恋人が眠っていた。
片手だけ紫音の頭に置かれていたことから、彼が寝る寸前まで撫でていたことが分かった。
「⋯⋯ありがと、朱音」
その手を起こさないように慎重に下ろした。
身体が熱いのに寒気があったが、幾分和らぎ、だが、ずっと寝ていたのもあり、重だるい身体を起こし、にんまりとした顔を見せる大切な人を見つめていた。
「しお⋯⋯にぃ⋯⋯」
そんな時、口をもごもごさせて呼ばれたことに驚いたのも束の間、口元を綻ばせる。
夢の中でも紫音が出てきて、朱音が今日あった出来事を嬉々として話しているのだろうか。
それとも、紫音の姿がなくとも頭がいっぱいで、心の声が漏れているのだろうか。
どちらにせよ、朱音が幸せそうな笑みをして眠っているところが見られて良かったと思う。
そして、羨ましいと思う。
紫音も眠っている間も、朱音が出てきて、出会った時のような無邪気に笑っているだけでも幸せだと思える夢を見ていたい。
けれども、その幸福な夢を邪魔をするかのように、目を背きたくなるようなものばかりを見てしまう。
それは今でも思い出したくないぐらいの、されど、脳裏に焼き付いている嫌な夢。
実の親の言うことをきちんと聞けない罰として見続けられているのだとしたら、この身が滅ぶまで続くのだろう。
本当はこんな夢を見たくない。だけど、そこまでのことをしたのだから受け入れるしかない。
その分、この子が幸せに満ち足りた夢を見ているのなら、これ以上の贅沢は言わない。
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