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ふたり占め#1 ④

◇◆◇◆◇ 最初は嫉妬の視線がすごかったのも、最近は微笑ましく眺められている感がある。 三人でいるところを写真に撮られてる時あるし…撮ってどうするんだ。 でも矢橋兄弟は三人で撮られると喜ぶ。 なんでも、『奏の可愛さを自慢できるから』らしい。 わからん。 ふたりの愛情は俺をふわふわ幸せにしてくれる。 親以外の誰かにこんなに愛されるなんて経験がないから戸惑ったけれど、嬉しい時は嬉しいって言うと、おかしい時は笑うと、それだけで藍流も流風も本当に幸せそうにしてくれるから、俺の精いっぱいで気持ちを返す。 でも恐怖も付き纏う。 いつかふたりが俺から離れて行く日が来るんじゃないかって。 『一生大切にする』って言われたけど、気持ちなんて変わるものだし。 その時、俺はどうしたらいいかって考えると足が竦む。 だからあまりふたりを好きになり過ぎてはいけない。 いつか離れて行ってしまうかもしれないんだから、ふたりの温かい空気に包まれている事に慣れ過ぎないようにしないと。 …この関係は、終わる可能性だってあるってきちんと理解しないといけない。 午前中の授業を受けていたら急に襲ってきたいつも以上の大きな恐怖に、これ以上深入りしない、そう何度目かの決意をした。 こう決意するのを繰り返しては失敗する。 でも、本当に今度こそはちゃんとしないと。 俺がひとりでも歩けるように。 それなのに。 「奏、お昼一緒に食べよう」 藍流と流風はいつでも時間を見つけては俺と一緒にいようとする。 その愛情が怖いって事に本人達は気付いていない。 「奏、どうしたの?」 「具合悪い?」 流風と藍流が心配そうに俺の顔を覗き込む。 …失った時の痛みが怖い。 「…俺、ひとりで食べるから」 それだけ言って教室を飛び出した。 ◇◆◇◆◇ ……はぁ。 特別教室の並ぶ校舎の隅っこでしゃがみ込んで膝を抱える。 お弁当を食べないといけないのに食べる気になれない。 溜め息を吐いて縮こまる。 怖い…怖い。 もし失うなら、最初から手に入れないほうがいい。 これ以上、矢橋兄弟を深く知らないほうがいい。 今日やって来た恐怖はあまりに大きくて、俺は押し潰された。 ふたりが好きなのに苦しい。 好きがこんなに苦しいものだなんて知らなかった。 愛情が、こんな恐怖を伴うものだと思わなかった。 みんな、なんでこんなに怖いのに誰かを好きになって恋人になるんだろう。 別れた時、どうやって立ち直るんだろう。 新しい恋が忘れさせてくれるのかな。 でも俺みたいな、平凡で特に秀でたものもない男を、矢橋兄弟みたいに愛してくれる人なんて絶対もう現れない。 忘れる方法がない恋が絶対に終わらない保証がなければ、そうじゃないなら…俺はもう藍流と流風といたくない。 「…ぅっ…く」 嘘。 いつか捨てられてもいいからふたりといたい。 藍流と流風が大好きだから、いつまでもふたり占めされたい。 どうしよう、涙が止まらない。 怖い。 好き。 苦しい。 「見つけた」 「!」 流風が俺の前に立っている。 スマホを出してなにかを打ったあとにスマホをポケットにしまう。 たぶん藍流に知らせたんだと思う。 「奏? 泣いてるの?」 「…っ」 「どうしたの?」 しゃがみ込んで、抱き締めようとしてくれる腕から逃げる。 手を払いのけてしまって、あ…と思って流風の顔を見たらすごく傷付いた目をしている。 「…ごめん。奏には奏の事情があるよね」 「ちが…ごめん、そんなつもりなくて…」 なにをどう言っていいのかわからなくて俯く。 そこに足音が聞こえてくる。 「奏!」 「…藍流」 「どうしたの? 急に出て行っちゃうからびっくりした…奏?」 藍流が俺の目尻を指でなぞる。 「泣いてたの?」 「…っ」 思わず顔を背ける。 俺、なにやってるんだろう。 藍流と流風、絶対傷付いている。 こんな事したいわけじゃないのに。 「ごめんね、奏。もし俺達の事が嫌なんだったら、俺達は戻るよ。流風」 「…うん、わかった」 「でも、ここは寒いから早く教室に戻ったほうがいいよ。風邪ひいたら大変だから」 なんでこんな風にふたりを傷付ける俺にそんなに優しくするの? ふたりはいつか離れて行っちゃうかもしれないのに…こんなに優しく愛されたら、俺はもうひとりじゃ立てなくなる。 藍流と流風の背中が遠くなっていく。 それが涙で滲んで、ぼやけて、そのまま俺は俯いた。

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