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ふたり占め#2 ①

1Bの教室で流風(るか)とふたりで藍流(あいる)を待つ。 お昼休みが始まってもうすぐ十分経つのに藍流が来ない。 どうしたんだろう。 「(かなた)、先に食べてようよ」 「う…ん、でも…」 「大丈夫。すぐ藍流も来るよ」 「ごめん。お待たせ」 流風がお腹空いたと言ったところで藍流が教室に入って来た。 なにかあったんじゃないかって心配だったから、俺はほっとする。 「はい。今日のお弁当」 「ありがとう。でも、俺と流風の分も作るの大変じゃない? 無理しなくていいんだよ?」 「そうだよ。気持ちだけで十分嬉しいんだから」 俺を気遣いながらもふたりともすごく喜んでくれるから、俺はまた作りたくなる。 「ううん。俺も、藍流と流風に喜んでもらえるのがすごく嬉しいから」 好きな人が自分の作ったものを幸せそうに食べてくれるのが、こんなに満たされるものだとは思わなかった。 最近は朝早く起きるのも慣れてきたし、三人分のお弁当を作らないと落ち着かない。 「奏は可愛いね」 「ほんとに…お弁当より奏を食べたい」 藍流と流風が俺の耳元で囁いて頬をなぞるから、ちょっとぴくっとしてしまう。 顔が熱い。 こういうのは慣れないし…恥ずかしい。 それに、教室内のみんなが見ないふりしてくれていながらもしっかり見てるっていう状況。 「だめ」 ふたりの手をとって頬から離す。 残念そうだけど、こういうのは教室ではだめ。 いただきますをして三人でお弁当を食べる。 「藍流はなんで来るの遅かったの?」 流風がそういえば、と藍流に聞く。 俺も気になってた。 「うん。職員室にね、ちょっと…」 「どうかしたの?」 俺が聞くと。 「留年するにはどうしたらいいか聞きに行ってた」 「えっ!?」 「学校休めば?」 藍流の答えにびっくりする俺と冷静な流風。 なんで留年? 「病気でもないのに休むって言ったら父さんも母さんもなにかあったのかって心配するし、留年したいから休むって正直に言ったら絶対怒られると思う」 「だろうね」 「それに学校来なかったら奏に会う時間が減っちゃう…」 「なんで留年したいの?」 藍流と流風が話すのを聞いて、俺は疑問を投げかける。 「だって俺、先に卒業しちゃうし、そしたら流風ばっかり奏のそばにいられるようになる…」 「でも一年から二年に上がる時のクラス替えで流風と俺、クラスが別になるかもしれないよ? 二年から三年に上がる時はクラス替えないって聞いたし、次離れたらそんなにいつもそばにはいられないんじゃない?」 「!!」 俺の発言に流風がかなりびっくりしてる。 あれ…クラス替えの事、忘れてたのかな。 「…あとで職員室行ってクラス替えしないでくださいって懇願してくる」 「ええ…?」 今度は流風まで。 俺だって藍流が先に卒業しちゃうのは寂しいし、流風とクラスが離れたら寂しい。 でも、ずっと一緒にいたくたって、なかなか難しい。 「そういえば藍流は行きたい大学、あるの?」 話をちょっと変えてみよう。 藍流、頭いいから、大学はどうするんだろう。 「どうしようかなって思ってる。やりたい事も特にないし」 「そっか。流風はやっぱり藍流と同じ大学に進むの?」 「わからない。俺と藍流の事より、奏の事のほうが重要かな」 「俺?」 なんで俺? 「俺は奏の行く大学に行きたい」 「俺も。それで先に入って奏を待ってる」 「……」 俺に合わせるって事? でも。 「俺の成績で入れるとこ…」 「奏だって成績いいでしょ。だから俺や流風に奏が合わせても、俺と流風が奏に合わせても、志望する学校のレベルに差は出ないよ」 「そうかなぁ…」 俺が行きたい大学、か。 まだ先の事だと思ってたから全然考えてなかった。 でも、藍流と流風と同じとこに行けたらいいな。 「とりあえず、勉強頑張る」 俺は決意する。 これからちゃんと頑張ろう。 いや、今までも手を抜いていたわけじゃないけど。 「わからないところがあったら“お兄ちゃん”に聞けばいいよ。そのために一年先いってるんだし」 「そういう時だけ流風は俺に頼るんだよな。奏なら大歓迎だけど」 「うん。その時はよろしくお願いします」 お弁当の続きを食べて、ちょっとおしゃべりしていたらもうお昼休みが終わる時間になって、藍流は2Eに戻った。

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