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ふたり占め#3 ③

◇◆◇◆◇ そして2月14日当日。 休み時間になる度、俺のそばには必ず流風か藍流がくっついている。 チョコは朝、一緒に登校する時に渡したし、帰りに家に寄る約束もしている。 でもべったり。 なんでって聞いたら。 「奏が襲われたら大変だから」 ……。 こんな平凡男子高校生、誰も襲わない。 俺としては藍流と流風のほうが心配なんだけど。 本人達は俺以外の人からのチョコは受け取らないって言ってるけど、どうしてもって言われたら、優しいふたりの事だ、断れないんじゃないのかな。 それに、バレンタインというイベントで勢いをつけた人が暴走して藍流や流風に突っ込んでくる可能性もある。 すごく心配…。 まぁ、そんな俺達は置いておいて、みんなソワソワしてる。 チョコを渡す予定のある人はちょっと緊張気味に見える。 当日になっても渡そうかどうしようか悩んでるような様子の人もいる。 恋人がいる人は、いつもらえるのかなってわくわくした感じ。 もう渡し終えている人はやり切った感が漂ってる。 今までこんな風に意識した事なかったけど、バレンタインって面白い。 藍流と流風が俺をガードしてるんだか、俺がふたりをガードしてるんだかわからない状態で時間は過ぎて行き、無事放課後になった。 一日の間にふたりは数えきれないくらい声をかけられてチョコを差し出された。 でも、前に言っていた通り、ふたりとも本命も義理も友チョコも全て断ってくれた。 すごく丁寧に断るから、渡そうとした相手のほうが恐縮して何度も謝って去って行く。 それをずっとそばで見ていた。 下駄箱や机に入っていたものは全部本人に返しに行った…三人で。 「……」 複雑。 ふたりが俺を大切に思ってチョコを断ってくれた事は嬉しい。 でもそれだけたくさんの人の心に傷を負わせてしまったという事でもある。 俺がふたりにたった一言、 『受け取ってあげなよ』 そう言えばよかったんじゃないか。 それともそれを言ったら、今度は藍流や流風を傷付けただろうか。 …わからない。 誰かと付き合った経験なんてないから、どうするのが正解だったのか全然わからない。 もう過ぎた事だから今更考えても仕方ないって忘れてしまっていい事じゃない気がする。 藍流と流風はどう思ってるんだろう。 電車に揺られながら、俺の前に立つふたりを見上げる。 「ん? なに?」 藍流も流風もいつでもまっすぐ微笑みかけてくれる。 口を開くけれど、なにをどう言ったらいいかわからず唇を引き結んで俯くと、藍流が顔を覗き込む。 「気分悪い?」 俺を気遣う言葉。 「一回降りようか?」 流風も心配そうに声をかけてくれる。 俺は無言で首を横に振る。 優しいふたりに人を傷付けさせたのは、俺じゃないのか。

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