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ふたり占め#5 ④
瑞希さんは続ける。
「ひとりじゃ立てなくてどこに行くにも抱っこしてあげなくちゃいけないの、可愛くない?」
「「………」」
「藍流? 流風?」
なんだかぽーっとした目で俺を見るふたり。
なにを想像してるんだ。
「あ。でもお尻ぺんぺんならしたいかも。奏さん、可愛い声で啼きそう」
「「「「瑞希!!!!」」」」
おしりぺんぺん………お尻…って、え、…え?
「みんなも想像してみたら? 奏さんがお尻ぺちんってされて可愛い声上げたり、お尻がちょっと赤くなっちゃってるの」
「「「「…………」」」」
「想像しないで!!!」
四人は頬を染めて俺から目を逸らした。
想像してる…絶対想像してる。
なんて事言い出すんだ、瑞希さん。
「……藍流と流風のどこがいいの?」
ひとつ咳払いをして、『話題を変えよう』と大雅さんが俺に聞く。
「藍流も流風も、顔とスタイルと頭と運動神経と性格くらいしかいいとこないだろ」
「……」
弘雅さん…それだけいいところがあれば普通は十分じゃ…。
「わかった!」
「?」
瑞希さんが声を上げるのでそちらを見ると。
「えっちがすごいんだ!」
「!!」
発された言葉に一気に顔が熱くなる。
瑞希さん、どうしてもそっち方向に話を持っていきたいんだ…。
「あたり? 奏さん真っ赤で可愛い!」
「ちが…、いや…あの…」
「そうかそれか…」
「あの藍流と流風が…そうか…」
「いや、えっと…!」
どうしよう。
なんか大雅さんも弘雅さんも納得してるし。
恥ずかしくて藍流と流風の顔が見られない。
でもこれじゃまるで俺がそれだけで藍流と流風を好きみたい。
「…でも、それは俺が藍流と流風と一緒にいる理由じゃないから」
俺の声にみんなが耳をすませるのがわかる。
「俺…言葉にうまく表現できないけど、とにかくふたりのそばにいたい。藍流と流風がどんな人でも、その隣にいたい。だから一緒にいる」
「どんな人でもって、ふたりがすっごい不良だったとしても奏さんは藍流と流風を好きになった?」
「うん。受け入れてもらえるかどうかは別として、好きになってたよ」
ふたりがそういう人だったら、どうなってただろう。
きっと俺の心は藍流と流風に向いていただろうな。
それでも俺を受け入れてくれただろうか。
「…いや、俺と流風がそういうキャラだったら、間違いなく力に物を言わせて強引に奏を自分達のものにしてた」
「うん…絶対そう」
藍流と流風がすごい事を言う。
でもそういう風に求められるのも…悪くないかも。
もちろん、相手が藍流と流風なら、っていう前提はあるけど。
「……奏の目が恋する男の目だ」
「なんでそれ向ける相手が藍流と流風なんだ…?」
「納得いかないなぁ…」
大雅さん、弘雅さん、瑞希さんが順番に呟く。
そう言われても。
みなさんには申し訳ないけど俺は藍流と流風が好きだから。
だからそういう目は藍流と流風にだけ向けてしまう。
「…しょうがないな、諦めるか」
「うん。嫌だけど」
弘雅さんと大雅さんが溜め息を吐く。
それからふたりともスマホを取り出して。
「諦めるから連絡先だけ交換しよ?」
にっこり。
「………」
俺が固まっていると藍流と流風が慌てて。
「全然諦めてないだろ! 連絡先なんて絶対だめ!」
「奏に用事があったら俺か藍流に連絡くれれば伝えるし!」
「それじゃ意味がない」
「意味がないって諦めるんでしょ!?」
「いやそれは方便というか」
「なにそれ!?」
言い合いを始めてしまった双子二組を眺めていたらうしろから肩をつつかれた。
振り返ると、なぜか瑞希さんがいる。
「?」
「これあげる。お近付きの印に」
そう言って可愛いうさぎのぬいぐるみのキーホルダーを俺の手にのせる。
でもすぐに横から手が伸びてきて、そのキーホルダーは瑞希さんの手に返された。
「……瑞希」
「ただのキーホルダーだよ?」
流風の怖い声と瑞希さんの不満気な声。
なんだろう。
キーホルダーならいいんじゃないのかな。
瑞希さんは返されたキーホルダーを顔の横でゆらゆら揺らす。
「…GPS入りだけど」
「!?」
流風が正解。
瑞希さんってなんか…怖い、かも。
流風は溜め息を吐いて瑞希さんを押しのける。
「あぶない男はどっか行って。奏、そろそろ帰ろう」
「あ、うん」
「藍流、行こう」
「そうだね」
流風と俺と藍流で立ち上がると、向かいの三人も立ち上がる。
「駅まで一緒に行く」
「来なくていい」
「じゃあ奏、連絡先教えて」
「それ全然関係ないだろ!」
「関係あるよ。だって…」
ふたりと三人で言い合いながら駅に向かう。
カフェを出る時、五人は言い合いながらも使い捨てのプラスチックのフォークを紙ナプキンで包んでしっかりバッグにしまっていた…。
俺は言い合いをただ聞いているけど、なんで俺なのかがやっぱりわからない。
しかしまあ…数時間で、俺ひとりでは一生かけても集められない、たくさんの人からの注目を集めただろうな。
普段から藍流と流風が隣にいるから人の視線は向けられるけど、プラス三人いたら視線もそれだけ多い。
五人は注目慣れしてるからいいけど、慣れてない俺は肩こり。
でも俺が『肩がこった』なんて言おうものなら五人で肩もみされそう。
それで済めばいいけど、マッサージ機をプレゼントされる可能性があるから滅多な事は言えない。
「奏、気を付けて帰るんだよ」
「ありがとう、大雅さん」
「藍流、流風、奏が誘拐されないようにちゃんと見張ってるように」
「わかってる。全力で見張る」
「弘雅に言われなくても、俺も藍流もいつも見張ってるしね」
「奏さん、またね」
「!」
瑞希さんがまた俺に顔を寄せてくる…!
すぐに藍流と流風が俺をガードして、大雅さんと弘雅さんが瑞希さんを遠くに押しのけた。
…ほんとに瑞希さんってあぶない人かも。
電車に揺られてちょっとぼんやり。
なんだかようやく一息つけた感じ。
楽しかったけど。
「奏、疲れたでしょ? ごめんね。家まで送ってくね」
「ほんとにごめんね、騒がしかったよね」
藍流と流風が俺の顔を覗き込むので、慌てて首を横に振る。
「ううん。楽しかった」
「そう?」
「無理してない?」
「うん。それに、藍流と流風の事をたくさん知れるのは嬉しいし。学校とかでは見られないふたりを見られて新鮮だった」
やっぱり気を許してるからか、いつものふたりとは違った。
そういう面を見られたのはすごく嬉しい。
でも確かに賑やかだった。
「ただ…」
「「ただ?」」
俺の言葉を藍流と流風がそのまま重ねて返すので、おかしくて頬が緩んでしまう。
「家に送ってもらうより……藍流と流風を補給したい気分…かな」
思ったままを言うと大きな溜め息がふたつ。
「?」
「奏ってさ…」
「…素、なんだよね」
「??」
ふたりがもう一度溜め息を吐く。
俺はなんとなくふたりの頭をよしよしと撫でてみた。
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