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ふたり占め#5 ③

◇◆◇◆◇ 「なんかごめん。色々もらっちゃって…」 俺の通学バッグの中には五人が一冊ずつと自分で買ったノート二冊、計七冊。 シャーペンの替え芯六個、消しゴム六個、付箋六個、ラインマーカー六セット他色々。 固辞したにも関わらず五人は俺が手に取るものと同じものを取り、ひとりずつレジに並んで購入した品を俺に差し出した。 受け取れないって言ったんだけど、みんな泣きそうな顔をするから受け取ってしまった。 こんなにどうするんだろうとは思うけど。 自分で買ったもの、藍流と流風にもらったもの、大雅さんと弘雅さんと瑞希さんにもらったものはわかるように教科書の仕切りで分けてあるのは秘密。 「使う度に俺の事思い出して欲しいから」 「そうそう。もっと欲しいものあったら言って?」 弘雅さんと大雅さんが微笑む。 やっぱりどこか藍流と流風と似てるかも。 「いえ、ほんとに申し訳ないから…」 「控えめなとこも可愛いなぁ、奏」 「藍流と流風なんてやめて俺のとこおいで?」 弘雅さんがにこにこと俺の頬をつつき、大雅さんが俺の手を取った。 藍流と流風が慌ててその手を俺から離す。 「手!!」 「だめ!!」 「大雅さんも弘雅さんもからかってるだけだから大丈夫だよ」 「「奏は自分の可愛さわかってない!!!」」 藍流と流風が嘆いてる…謎。 俺を選ぶ物好きはこのふたり以外にいないと思うんだけど。 色々プレゼントしてくれたのだって、藍流と流風の仲のいい友人だと思われてるからだろうし。 そんな事を考えながら言い合う四人をぼんやり眺める。 「奏さん、あーん」 「え? あ…」 突然、ケーキののったプラスチックのフォークを差し出されて反射的に口を開けてしまう。 口の中に生クリームの甘みといちごの酸味が広がる。 「おいしい…」 「可愛い、奏さん」 「「「「瑞希!!!」」」」 「なんにもしてないよ? ケーキがおいしいから食べさせてあげただけ」 そう言って瑞希さんは俺に差し出したフォークに唇を寄せる。 「………間接キス」 「「「「!!!!!」」」」 四人が期待した顔でフォークにケーキをのせて、俺に向かって差し出す。 「……え?」 「「「「奏!!」」」」 また声が重なってる…けどそんなのどうでもいい。 藍流と流風はわかるんだけど、なんで大雅さんと弘雅さんまで…? ん? え…。 は……!? 「これは、俺に食べろと…?」 四人は同時に頷く。 「………」 どうしようか悩むけど、男は度胸だ!と向かいの右側から順番に食べていく。 右側の弘雅さん真ん中の大雅さん、左隣の流風に右隣の藍流。 ちなみに向かい左側の瑞希さんは機嫌よく紅茶を飲んでいる。 「このフォーク、一生の宝物にしよう」 「俺、真空パックして飾っとく」 「奏さんとの間接キスは俺が一番乗りだもんね」 大雅さんと弘雅さんと瑞希さんがこそこそ話してるつもりなんだろうけど、丸聞こえ。 …やっぱり俺、気に入られてるみたい? からかってるんじゃなくて…? ていうかなんで俺? こういうのを好む血筋? 「奏、もう一口食べる?」 「よかったら俺のも食べて」 藍流がまた俺にケーキののったフォークを差し出す。 流風も同じく。 ふたりとも、なんだか沈んだ瞳をしている。 「………」 ぱくぱくっと差し出されたケーキを食べると、ふたりは安心したような表情になった。 「藍流と流風は昔から気に入ったものに対しての独占欲と執着心がすごいよな」 と弘雅さん。 そうなんだ。 「そうそう。全く同じおもちゃふたつあるのに、なんでかひとつでずっと遊び続けて誰にも触らせなくて」 「気に入ったら、ふたりでひとつでも、壊れてもうバラバラになっちゃってても、『これじゃないとだめ』って言ってね」 大雅さんの言葉に、弘雅さんも更に続ける。 藍流と流風は恥ずかしそう。 「そうだっけ」 「覚えてない」 藍流と流風の小さい頃の話って初めて聞く。 覚えていないくらいの話だから本人達からは一生聞けない話だ。 「ひとつを選ぶとずーっとそれだけだよね、ふたりとも」 瑞希さんも言うって事はふたりってほんとにずっとそうなんだ。 …でもそれって、選ばれなかったおもちゃもあるわけで。 なんだか複雑。 「……」 なんとなく藍流を見て、流風を見る。 「ん?」 「なに?」 「……」 そっか。 バレンタインの時もそうだったけど、俺がふたりに選ばれた事で選ばれなかった人もいるんだよな。 そう考えたら心がきゅっと痛くなる。 それに…。 「……」 …“ずっとそれだけ”の“ずっと”って、どのくらいだろう。 いや、ふたりの気持ちを疑っちゃいけない。 一生大切にするって言ってくれた。 …でも…。 「奏?」 藍流の心配そうな声。 「どうしたの?」 「…ううん…ちょっと…」 流風も心配して声をかけてくれる。 俺はなんかもごもごしてしまう。 「………俺が壊れてバラバラになっちゃっても、ふたりは俺じゃなきゃだめって言ってくれるかなって…」 ガタンッ!!! 「!?」 俺以外の五人が一斉に立ち上がる。 何事か。 「「「「「抱き締めていい!?」」」」」 従兄弟同士ってこんなに声が重なるものなんだなぁって五人を見上げる。 立ち上がる時の椅子の音まで重なってたし。 「俺が先!」 「いや俺!」 「なに言ってるの!? 俺だよ!」 「は? 俺でしょ!」 「俺!」 もう誰がなに言ってるか…いや、わかるけど。 とりあえず蜂蜜入りの紅茶を一口飲む。 「みんな座って落ち着いて?」 俺が言うと五人は黙って椅子に座り、それぞれの飲み物を飲む。 「…あ、あまりの可愛さに頭の中が真っ白に……。藍流、流風…奏の発言はやっぱり素なのか?」 「うん…」 「そう…」 大雅さんの問いに藍流と流風が頷く。 素ってなにが? 「狙ってるんじゃなくて?」 「…だからひとりにしておけないんだ…今日も一緒に来てよかった」 弘雅さんが『ほんとに?』って顔して聞くと、流風がもう一度頷く。 「え、奏さん、ひとりで来る予定だったんだ? そのほうがよかったなぁ…そしたら今頃おいしくいただいてたのに」 「おいし……お断りします」 それは絶対お断り。 「大丈夫だよ。ひどい事はしないから」 「瑞希の『ひどくない』は十分ひどいだろ」 「失礼だなぁ、弘雅。立てなくなるまで抱き潰すくらいだよ」 「………」 抱き潰す…。

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