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ふたり占め#5 ②
声を上げると引き合う力が止まった。
ちょっと声大き過ぎたかも。
「…痛いです」
五人が同時にパッと手を離す。
「ごめん奏!」
「大丈夫!?」
藍流と流風が慌てて謝る。
「ごめん。つい我を忘れて」
「痛かったよね」
弘雅さんと大雅さんも。
「ごめんなさい、奏さん…ああ、顔真っ赤」
「えっ!?」
瑞希さんは俺の頬にキスをした!
俺だけじゃなく双子二組も固まる。
「なにやってんの、瑞希!」
「あああ、奏が…!」
流風が瑞希さんに詰め寄り、藍流が俺の頬をタオルハンカチで撫でる。
「だって奏さん、真っ赤ですごく可愛いんだもん」
全然悪びれずにそう言う瑞希さんの額を大雅さんが指で弾く。
「いたっ!! なにするの!?」
「抜け駆けする瑞希が悪い」
「大雅どいて。俺もやる」
「やめてよ!」
弘雅さんが指を構えて瑞希さんは額を隠して…。
俺はなんだかもう頭がついていかない。
「そもそもなんで三人が奏の事知ってるの?」
藍流が聞くと。
「あやの叔母さんが『あの藍流と流風が…!』って嬉しそうに話してたって母さんが俺達にわざわざメッセージ送ってきた」
「ゆい伯母さんが?」
大雅さんに流風。
「なんでもかなりご執心だとか?」
弘雅さんが俺を見て、それから藍流と流風を見る。
ご執心って…。
「うちのお母さんもあやの伯母さんから『藍流と流風が奏くんに夢中』って話を聞いてたよ」
「まほ叔母さんにまで…?」
続いて瑞希さんに藍流。
叔母さんに伯母さん…伯母さん叔母さん。
頭の中でぐるぐる回る。
“ゆい”と“まほ”は誰かわからないけど、“あやの”は藍流と流風のお母さんの名前だ。
いや、伯母さんに叔母さんなんだから、あやのおばさんのお姉さんと妹さん?
という事は…?
「あの、五人は…?」
「ああ…説明できてなかったね、ごめん。母方の従兄弟だよ」
「………」
藍流の言葉になんか…納得。
綺麗な顔立ちは血筋か。
あと、五人とも吸い込まれてしまいそうな真っ黒で綺麗な瞳をしている。
「細かい事はいつか奏を正式に紹介する時に説明するよ。って言っても複雑な事はないけどね」
「えっ!?」
『正式に』ってなに!?
「とにかく、俺達は買い物中だから。じゃあね」
藍流の言葉にびっくりする俺の手を流風が握り、反対側を藍流も握って歩き出そうとする。
「俺達も一緒に行く」
「もっと奏といたい」
大雅さんと弘雅さんが笑顔で俺達の前に立ち塞がる。
ふたりともすごくかっこいいんだけど、笑うと可愛い。
ぽけーっと間抜けに見上げる俺の首に、背後から腕がゆったり回ってきた。
「人数多いほうが楽しいよ?」
瑞希さんが俺の耳元で囁き、ぞわっと鳥肌が立つ。
藍流と流風だとどきどきするのに。
「ね、奏さん? いいって言わなきゃまたキスしちゃうよ?」
「!!」
瑞希さんの唇が近付いてくる…!
俺が避けるより先に他四人が瑞希さんの顔を押しのけてくれてほっとする。
「瑞希、なに脅してんだ!」
「脅してないよ、お願いだもん。ね、奏さん?」
「……」
大雅さんの言う通り、俺も脅しだと思うけど言えない。
「…みなさんがあまり目立たないようにしてくれるなら一緒に行きましょう」
そうして六人で買い物をする事になった。
…けど。
このメンバーで目立つなって言うほうが無理だよな。
買ったものをバッグにしまいながら俺は溜め息を吐く。
「奏、どうした? 疲れた?」
「どこか入るか…瑞希、カフェ行って席取ってこい」
「弘雅…そうやって邪魔者ひとり消そうとしてるでしょ?」
「その通り」
「奏さん、大雅と弘雅ってこういう嫌な男なんだよ。気を付けてね」
「なんで俺まで……瑞希! 勝手に奏にくっつくな!」
大雅さんが声を掛けてくれて、弘雅さんも気を遣ってくれる。
瑞希さんは隙を見つけて俺にくっつく。
怒鳴る大雅さん、引き剥がす弘雅さん。
どうしたらいいのやら。
「奏、大丈夫?」
「ごめんね、こんな事になって」
「ううん。藍流と流風のせいじゃないよ。賑やかで楽しいし」
藍流と流風が心配そうに俺の顔を見て言うので、俺は首を横に振る。
楽しいには楽しい。
ただなぜこのメンバーの中に俺がいるのかが謎。
俺こそ邪魔じゃないのかな?
「みんな喉渇いてない? 俺がカフェに行って席取ってくる」
ちょっと距離を置こうかなーなんて、ちょこっと逃げようかなーなんて思って提案したら。
「喉渇いたの!? ごめん、気付かなくて! 俺がすぐカフェ行って席取りする」
「いや、藍流は奏といて。俺が行く」
いやいや俺が行く俺がいや俺がいやいやいや…となぜか五人でカフェに行こうとする。
なんなんだ。
「じゃあこうしよう。四人で席取りに行って? 俺は奏さんがあぶない人に連れて行かれないようにしっかり手を繋いで見張ってるから」
瑞希さんが優しい笑みを浮かべて俺の手をぎゅっと握る。
「「「「一番あぶない男に任せられるわけない!!!」」」」
わ、すごい!
綺麗に声が重なった。
すぐに双子二組は俺から瑞希さんを引き離す。
あぶない男…?と瑞希さんを見ると目が合って、瑞希さんは意味ありげにふふふっと笑う。
なんかまたぞわっとした。
「みんなで行こう」
「そうしよう」
「……」
イケメン御一行プラスおまけの平凡一名はぞろぞろとカフェへと移動した。
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