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ふたり占め#5 ①
学年末テストも無事終わった……俺がちょっと暴走したけど。
授業はもうないけど、自宅とか矢橋 家で苦手な部分を克服するための復習をしていて、ノートとか色々すぐ必要なものがある。
藍流 と流風 に学校帰りに買い物に付き合ってくれないかと聞いたら即OKだった。
ていうか、ひとりで賑やかな街に行っちゃだめって言われてしまった。
そういうわけで今日は矢橋家にまっすぐ行かずに寄り道。
そして相変わらず様々な人に声を掛けられるイケメン双子。
藍流も流風も慣れっこだからさらりと受け流すのがまたかっこいい。
その姿をぽーっと見上げながら歩いていたら転びそうになった。
ふたりが慌てて俺の手を握る。
「…ごめん、ありがとう」
「大丈夫?」
「うん。もう大丈夫」
大丈夫だと言ってもふたりは俺の手を離さない。
「もう大丈夫だよ?」
「もしものために」
「奏 が誘拐されたら大変だしね」
流風と藍流がご機嫌で歩き出す。
繋がれた手にぎゅっと力がこめられた。
「…手を繋ぎたいだけじゃないの?」
「だめ?」
ふたりが俺の顔を覗き込み、距離が近くて顔が熱くなる。
ちょっと俯いてふたりの手をぎゅっと握り返してからもう一度顔を見る。
「…だめじゃない」
「可愛いなぁ…もう帰ろっか」
「俺も帰りたい。奏、だめ?」
俺の答えに藍流と流風が微笑む。
ほんのちょっとした言葉でこんなに喜んでくれる…なんて幸せなんだろう。
「だめ。まだ買い物終わってない」
「じゃあさくっと済ませて帰ろう」
「それでいっぱい…」
「ここでそれ以上言わないで」
慌てて流風の言葉を遮る。
そういう事はこんなに人がいっぱいいるところで言っちゃだめ。
「そうだね、ごめん」
すごい笑顔で謝られても。
反省なんてしてませんって顔に書いてある。
きっと俺が恥ずかしがってるのが可愛いって思ってる。
…でも、そういうのも嫌じゃないから俺も大概だ。
のんびり三人で歩く。
足の長いふたりは、俺がいなかったらもっと速く歩くんだろうな。
俺の速度に合わせてゆっくり歩いてくれる。
そういう優しさが本当に嬉しい。
「あー! 藍流と流風!!」
「え?」
「「!!」」
突然、背後からふたりの名前を呼ぶ声が聞こえて振り返ると、綺麗な男の子がこちらに駆け寄ってきている。
俺と同い年くらいに見えるけど、うちの学校の生徒ではない。
藍流と流風が素早く俺の前に立ち、その男の子と俺の間に壁を作る。
「…?」
ふたりに遮られて向こう側が見えない。
「なに隠してるの?」
「別に?」
「瑞希 は買い物?」
「うん。久しぶりだね」
瑞希と呼ばれた子の声が聞こえる。
知り合いかな?
三人で話してる間、藍流と流風は俺を隠したまま。
とりあえずおとなしくしていたほうがよさそうなのでそのままでいると。
「大雅 、弘雅 、早く! 藍流と流風がいるよ!」
「「えっ!?」」
「瑞希、ひとりで先行くな」
「藍流と流風?」
壁…もとい藍流と流風の向こう側で瑞希さんが誰かを呼んでいる様子。
藍流と流風の驚く声が重なる。
そして瑞希さんの呼びかけに答える低い声ふたつ。
ほんとになんなんだろう。
ちょっと覗いてみたら、目の前に瑞希さんの顔が。
「っ!?」
「藍流、流風、この可愛い人だぁれ?」
さっきチラッと見えたけど、間近で見てもすごく綺麗な男の子。
藍流と流風と同じの艶のある黒髪はふたりより若干長め。
真っ黒な瞳が俺を映している。
「瑞希、奏に手を出さないで」
「俺達もう行くから」
藍流と流風が俺の手を取って歩き出そうとするけど、すぐに足が止まった。
なにかと思ったら藍流と流風より背の高い男性ふたりに肩を掴まれている。
「久しぶりなのに冷たいな」
ふわふわの黒髪に高身長、そっくりな顔立ちの、大学生と思われる男性がふたりいてそのひとり、パーカーを着ているほうの人が言う。
「奏って、もしかして“浅羽 奏”?」
「え? はい…そうですけど…?」
もうひとりの、ニットを着ている男性に聞かれて俺は頷く。
「あなたが奏さんなんだ!」
ふたりの男性と瑞希さんは俺の顔を覗き込む。
男性ふたりは双子だ。
藍流と流風も綺麗でかっこいいけど、こちらもかっこいい…雰囲気はちょっと違うけど。
「なるほど、これは可愛い」
なんかすごい見られてる…。
「三人とも、勝手に話しかけないで」
藍流がまた俺の前に立つ。
でもすぐパーカーの男性とニットの男性にどかされた。
藍流がこういう扱いされてるの初めて見る。
「今いくつ?」
「十五です、けど…?」
「奏、答えなくていいから」
ニットの男性に聞かれて答えると、流風が俺の腕を引く。
なにがなんだかわからない。
とりあえず五人は知り合いらしい。
「十五? 俺と同い年だ」
瑞希さんが俺の腕に抱きつく。
びっくりして腕を引こうとしたけど瑞希さんの力が強くて無理だった。
「奏はもうじき誕生日だから瑞希の一個上。奏に触らないで」
「やだ」
「藍流、余計な情報与えるな」
藍流が引き剥がそうとするけど瑞希さんはひっついて離れない。
流風が藍流に加勢すると、パーカーの男性とニットの男性が俺を抱き寄せる。
ふたりの男性からは、前にサンプルで嗅いだ事のあるムスクの柔軟剤の香りがする。
「俺、森窪 大雅、二十歳。よろしくね、奏」
パーカーの男性…大雅さんが綺麗に微笑む。
「俺は弟の弘雅。これは友永 瑞希」
続いてニットの男性…弘雅さんがそう言って、俺の腕に抱きついたままの瑞希さんの額を指でぐりぐり押す。
「痛いよ弘雅」
「独り占めはいけない」
「自己紹介が済んだならもういいだろ。行こう、奏」
流風がそう言って藍流と一緒に俺の腕を引く。
でも大雅さん、弘雅さん、瑞希さんも俺を離さない。
ふたりと三人で俺を引っ張り合う。
…なにこれ。
イケメンふたりVSイケメン三人…。
引っ張られて痛い以上に恥ずかしい。
何事かとみんな見てる。
そりゃそうだ。
イケメン達に取り合われてるように見えるのが平凡過ぎる男子。
俺だって当事者じゃなかったら見てただろう。
ていうか俺が当事者な時点でおかしい。
「あの!!!」
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