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ふたり占め#9 ①
終業式も無事終わった。
びっくりするくらいたくさんのクラスメイトから、クラスが離れちゃうかもしれないから連絡先交換して!って言われた。
なぜかその中に他のクラスの生徒も混ざっていたのは本当にわからないけど。
藍流 と流風 は俺のうしろで全員チェックしていたみたい…だけど背後の事は見えないから詳細は謎のまま。
そして春休み。
もうじき藍流と流風の誕生日。
プレゼントはデートがいいとリクエストがあったからどこに行こうかと三人で相談したんだけど、春休みだからどこも混んでいそうって事で矢橋 家の近くにある少し大きめの公園に行こうって話になった。
桜も綺麗に咲いているだろうしって。
お花見デート…楽しみ。
久しぶりにお弁当作りたいな。
わくわくしていたらスマホが鳴った。
藍流から着信。
「はい」
『奏 、今大丈夫?』
「うん」
藍流もどこかわくわくした声をしている。
なんだろう。
『前にお願いした通り、明日の予定は空けてくれてる?』
「うん。大丈夫」
そうだ、藍流と流風の誕生日の前に。
明日、三月二十四日。
俺の誕生日のお祝いをしてくれるらしい。
誕生日は本当は二十五日だけど土曜日だから、当日だと恭介おじさんもあやのおばさんもおうちにいるので、一日早く二十四日に藍流と流風がふたりでお祝いしてくれるって張り切ってる。
『楽しみにしててね!』
「うん。ありがとう」
通話を終えてぼんやりしてたらメッセージが届いた。
『十二時に迎えに行くから待ってて』
『了解』と返してベッドに横になる。
どんな日になるんだろう。
一年前には想像なんてできなかった。
こんなに大切な人達ができている事、その人達にお祝いしてもらえる事、絶対想像できない。
「楽しみ」
ふたりがいたら絶対『にやにやしてる、可愛い』って頬をつつくだろうなと思いながら目を閉じる。
いつでも俺の思考の中心は藍流と流風。
これがもう当たり前。
◇◆◇◆◇
そして二十四日。
約束の十二時に藍流が珍しくひとりで迎えにきた。
「流風は?」
「うちで最後の仕上げしながら待ってる」
俺より藍流のほうがわくわくしてる。
たぶん流風もわくわくして待ってるんだろうな。
ふたりのほうがよっぽど可愛い。
矢橋家に着いてびっくり。
テーブルには俺の好きなものばっかり。
「おいしそう…」
ぐう。
お腹も鳴った。
「奏の可愛さはいくつになっても変わらないんだろうなぁ」
「おじいちゃんになっても絶対可愛い」
藍流も流風も嬉しそうににこにこしてる。
椅子を引いてくれるので座って食事の時間。
取り分けてもらったものを食べるけどどれもすごくすごくおいしい!
「おいしい…」
泣きそうになってしまって慌てて涙を堪える。
せっかくの食事の味がわからなくなってしまう。
それに俺が泣くとふたりを困らせてしまうし。
だから泣かないようにぐっと堪える。
それで一口一口を大切に食べる。
全部に愛情がこもっててすごくおいしい。
「ありがとう…こんなにおいしいもの食べられて幸せ」
「よかった」
「藍流とレシピ見ながら作ったんだ」
ふたりともほっとしてる。
そういえば藍流と流風っていつも仲良くて俺も嬉しいけど、喧嘩する事ってないのかな。
「藍流と流風って喧嘩したりしないの?」
俺がなんとなく思った事を聞くと。
「「するよ」」
「え、いつ?」
最初の頃は睨み合っていたのは見た事あるけど喧嘩ってほどまでは見た事ない。
「奏のいないところでこっそり喧嘩してすぐ仲直りしてる」
流風が教えてくれる。
「こっそり?」
「だって俺達が喧嘩してたら奏は嫌でしょ?」
「うん」
藍流が聞くので頷く。
「奏が嫌がる事はしたくないからね」
「だからすぐ仲直りする」
「ちなみに喧嘩する時はなにが原因で喧嘩するの?」
藍流も流風も、そうするのがもう当たり前になってるみたいに言う。
だから俺はもうちょっと聞いてみる。
ふたりは顔を見合わせて。
「奏の可愛いところとか?」
「え?」
流風の言葉に思わず聞き返してしまう。
「俺はほっぺたがぷにぷになのが可愛いって言うんだけど、流風は唇がふわふわなのが可愛いって言って」
「それで喧嘩になって」
「……」
「最終的に奏は全部可愛いっていう事で仲直りする。な?」
「うん」
なにそれ。
でもここは俺がなにか言っていいところじゃない。
ふたりにとってはものすごく重要な事なんだ、きっと…うん。
「まあそれ以外にも、俺も流風も人間だからね。喧嘩くらいするよ」
「でも奏に嫌な思いはさせたくないのが一番大きいから、苛々なんてすぐ飛んでっちゃう」
「…ありがとう」
嬉しい。
そうやって大切にしてくれてる事、本当に嬉しい。
「奏のそういう優しいところ、ほんとに大好き」
「なんにでも感謝してすごく心が綺麗なところ、尊敬する」
流風も藍流も優しく微笑む。
そんな風に言われた事ないから顔が熱くなる。
ふたりの言い方は大げさだ。
俺は優しくなんてないし、心も綺麗じゃない。
ましてや尊敬なんて全然似合わない。
「奏が赤くなった」
「可愛い」
「もう、見ないで…」
お茶を飲んで食事に集中する。
本当に俺の好きなものばっかり。
会話の隅っこでちょこっと言った事も全部覚えててくれててすごく嬉しい。
また涙出そう…だめ、我慢。
ゆったり食事を楽しんで、片付けは手伝った。
手伝わなくていいって言われたんだけど、仲間外れは嫌だって言ったらふたりは『しょうがないなぁ』ってにこにこしながら手伝わせてくれた。
「藍流も流風も料理が上手なんだね。俺、何度やっても失敗しちゃう事あるよ」
やっぱり完璧な人は完璧なんだなぁって思いながら言うと。
「いや、全然」
「うん。だってさっき藍流、砂糖と塩間違えて…」
「流風だって料理酒とみりん間違えたじゃん」
「料理酒とみりんって同じようなものでしょ」
「違うよ。違うよね? 奏」
「え? あ、うん…」
「そうなの?」
なんか…あれ?
思ったより俺と同じ感じ?
さすがに砂糖と塩とか料理酒とみりんとかは間違えないけど。
「その失敗した分ってどうするの?」
「俺と流風の明日のご飯」
「奏には絶対食べさせられないから」
「そう…じゃあそれも一緒に食べよう」
「「えっ!?」」
そんな貴重なもの、食べないわけにはいかない。
冷蔵庫を開ける俺を止めるふたり。
「だめだよ奏!」
「そうそう、おいしいお菓子があるんだ! まだ食べたいならそれでお腹いっぱいにしよう!」
「あった。これだ」
藍流と流風が慌ててる。
俺は無視して冷蔵庫から保存容器を取り出す。
「だめだめだめ!」
「奏! おいしいもの食べよう!? そんなのだめだよ!」
流風も藍流も俺の手を掴むけど、ぽいぽいっと振り解く。
温めたほうがいいのかな。
お皿に出してラップをかけて電子レンジに入れる。
ふたりはわたわたしてる。
温まったものを食べようとする俺をまだ止めるふたり。
ふーふーしてから口に入れると。
「……」
「「奏!!」」
不思議な味。
甘いはずの料理なのにしょっぱい。
他も食べると甘辛いはずの甘辛焼きがものすごくしょっぱかったり、味は問題なくても見た目がいまいちだったりと色々。
なるほど、ふたりにとって問題ありなものは保存容器に詰めたのか…。
「藍流、流風」
「な、なに?」
「嫌いになった…?」
藍流と流風がびくびくと俺に聞く。
嫌いになんてなるはずない。
なに言ってるんだろう。
「今度からこういうのも一緒に食べようね」
「「なんで?」」
ふたりはまだちょっとびくつきながら本当に不思議そうに聞く。
「だって藍流と流風が一生懸命作ってくれたものは俺も食べたい」
たとえ失敗したって一生懸命作ってくれたものに変わりはない。
俺の事を考えて何度も作り直してくれたんだ…嬉しい。
ぱくぱくと続けて食べる俺をふたりはまた止めようとする。
「…奏はなんでそんなに優しいの?」
俺の手を掴んで流風が聞く。
「優しくないよ。自分勝手。ふたりが止めるの無視してる」
そう答えてまた食べると藍流も俺の手を掴む。
「優しいよ。失敗作をそんな風に食べてくれる子、いないよ…」
「そう? 好きな人が作ってくれたものだったら誰だって喜んで食べると思うよ?」
ふたりの手をもう一度ぽいぽいっとして食べる。
不思議な味だけど優しい味。
心がこもってるから嫌いじゃない。
ふたりもお箸を出してそーっと食べる。
「「……奏」」
「不思議な味だよね」
「これだめだよ…」
「もうおしまい」
藍流と流風がお皿を取り上げようとするから手でがっしりお皿を掴む。
「だめ。俺の」
「「奏…」」
「…だめ?」
ふたりは『しょうがないな』って顔で俺の頭を撫でる。
「お腹痛くなっても知らないよ」
「ならないよ」
「ほんとに無理しないでね」
「うん」
藍流と流風が見守る中で完食。
さすがにもう食べられない。
「奏、ありがとう」
「大好き」
流風も藍流も俺を抱き締めてたくさんキスをくれる。
優しいキスに心も満たされる。
心もお腹もいっぱいで大満足。
すごく幸せ。
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