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ふたり占め#9 ③
「あれ、俺、寝てた?」
「うん」
「そっか…あ、藍流も寝てる」
「…?」
流風の声で藍流が起きてしまう。
寝顔観賞タイムおしまい。
俺が起き上がるとふたりはちょっと寂しそうにする。
「起きるの?」
「? うん」
藍流が聞くので頷く。
「もうちょっとだけ」
流風が膝をぽんぽんするけど。
「だってまた眠くなっちゃう」
「「……」」
藍流と流風はがっかりしているように見える。
ほんとに不思議なふたり。
「そうだ、奏にプレゼントがあるんだよ」
「え?」
「そうそう。渡し忘れるところだった。奏、おいで」
藍流がクローゼットの中の紙袋から綺麗にラッピングされた箱を取り出す。
流風の膝に座って首を傾げる俺。
「俺、プレゼントもらい過ぎじゃない?」
手料理振舞ってもらって、膝枕してもらって、更になにかもらうなんて申し訳ない。
そう言うと。
「大切な奏の誕生日に贈るならまだ全然足りないよ!」
「うん。ほんとはもっといっぱい色々贈りたいけど、俺も藍流もまだ高校生なんだよな…悔しい」
「ええ…十分過ぎるよ」
高校生じゃなかったらなにを贈るつもりだったんだ。
ふたりが高校生でよかった。
「開けていい?」
「うん。開けてみて」
「気に入ってもらえるといいんだけど」
藍流も流風もちょっと不安そう。
ラッピングを解いて箱を開けるとブルーのマグボトルが出てくる。
「わ、マグだ」
「これならいつでも使ってもらえるかなって思って」
「他にも思惑があるんだけど」
「思惑?」
思惑ってなに。
藍流の言葉に首を傾げるとふたりはにこにこ微笑む。
「俺と流風も色違いで同じマグ買ったんだ」
「奏とお揃いのものが欲しくて」
「お揃い…」
甘い響きに顔が猛烈に熱くなった。
三人でお揃いのマグ。
恥ずかしくて嬉しい。
「…毎日使わせていたただきます」
どうしよう。
口元が緩んでしまう。
お揃いのマグ。
「奏がにこにこしてる」
「ほんとだ。気に入ってくれた?」
藍流と流風はしっかりそういうのに気付く。
「気に入らないわけない。ありがとう」
ふたりにぎゅっと抱きつくと、しっかり抱き留めてくれてキスが落ちてくる。
「すごく嬉しい。ほんとにありがとう」
藍流も流風の優しさに、俺はなにが返せるだろう。
ふたりが喜んでくれる事、なにかしてあげたい。
でもお返しを求めてやってくれてるんじゃないだろうから、なにか返したいって言うのも失礼かな…?
「藍流、流風…」
「なに?」
「どうしたの?」
「…なにか俺にして欲しい事ない?」
藍流も流風もきょとんとしてる。
「して欲しい事?」
「奏に?」
「うん」
「「あるよ」」
「なに?」
藍流と流風はにこにこしてる。
「膝枕さっきしたから次は腕枕したい」
「うん。あとキスもしたい」
「…それ、ふたりが俺にしたい事でしょ。俺にして欲しい事だよ」
もう…。
「俺を甘やかし過ぎ」
ちょっと怒って言うと。
「だって奏を甘やかしたいんだよ。俺も流風も」
「そう。奏がどろどろに溶けちゃうくらい甘やかしたい」
「そんなのだめだよ…」
そんな事されたら、本当にひとりじゃ立てなくなる。
「だめでいいの。だめになって」
藍流がキスと一緒に甘く囁く。
「ほんとにだめ…そんな事されたら…」
どきどきする。
俺にはふたりがいないとだめだけど、もしそんなに溶かされたらもう……想像しただけで顔が熱い。
流風も俺の耳たぶを甘噛みする。
「俺と藍流で一生愛し抜くから大丈夫」
低い声が体内を巡ってくらくらする。
どうしよう。
溺れそう。
「あ…」
キスが欲しい。
そう思った時には藍流の唇が重なっていた。
藍流のキスが解かれ、流風のキスが落ちてくる。
キスだけでもすごく溶かされているのに。
ベッドに寝かされ、可愛い、大好き、と甘い囁きがずっと耳に触れる。
どんどん身体が熱くなっていって心が燃える。
ふたりに丁寧に丁寧に愛撫されて息が上がっていく。
いつもよりねっとりと胸の突起をねぶられて腰が揺れてしまう。
「…指、挿れるよ?」
「ん…」
藍流が首にキスをしながら聞くので頷く。
甘噛みされるとゾクゾクして昂りに熱が集まるのがわかる。
「奏、甘噛みされるの好きだね」
「…すき」
流風も鎖骨や肩を甘噛みするので奥が疼く。
もっといっぱいふたりを感じたい。
全然足りない。
「もっと、もっとして…」
俺が求めると身体中にキスと甘噛みが降ってくる。
その度に声が漏れる。
奥の蕾をほぐしながらふたりはいっぱいキスをくれる。
「ん…ぁ、ぅ…」
流風の唇が重なって吐息を絡め取られて、濡れた音にまた奥が疼く。
俺の身体で、藍流と流風の知らないところなんてもうなにもないんだろうな。
恥ずかしいけどすごく幸せ。
今日のふたりは妙に優しく俺に触れる。
なんだかちょっと物足りなくて。
「…もっと意地悪して」
「奏?」
「……藍流と流風の意地悪、好き…」
ふたりがごくりと喉を鳴らすのが聞こえた気がした。
熱い瞳が俺を捕まえる。
「だめ。今日は甘やかす」
「優しくするって藍流と決めたんだ」
「…そういう意地悪?」
「「違うの!」」
藍流に唇をかぷ、と軽く噛まれる。
「奏はそうやってすぐ俺達を煽るんだから…もう」
蕾をほぐしていた指が抜かれる。
怒ってるような事を言いながら藍流と流風の表情は柔らかい。
膝から太腿、太腿の内側に優しくふたりの唇が触れる。
やんわりとした刺激がもどかしくて腰が揺れてしまう。
「奏はほんとに可愛い」
流風の昂りが宛がわれて、ゆっくり奥に進む。
やっぱり動きが優しくて俺はもどかしい。
流風の首に腕を回して唇を重ねる。
「もっと、して…」
「っ…」
流風の瞳の奥に熱が灯る。
流風へのキスを解くと、交代に藍流がキスで俺の唇を塞ぐと同時に流風に弱い部分をぐぐっと擦られて身体が跳ねる。
「んむ、ぅ…! ぁん…んんっ!」
藍流の食べ尽くすようなキスと、俺の望む意地悪な流風の動きに呑まれていく。
俺の弱いところを全部知り尽くしているふたりはそこを責める。
もっと欲しくてねだると藍流も流風も頬を上気させて俺を追い詰める。
「あ、っ! あ…イきそ、も、イッ…!!」
大きな波がやってきて、快感に目の前がチカチカする。
「あぅ…あ」
藍流と流風の熱い視線が絡みつく。
イッたばかりなのにぞくぞくする。
俺を抱きかかえる藍流の二の腕に唇の痕を残すと、藍流が額や頬にキスをくれる。
「奏がすごく可愛い事するの、困る」
流風が動いてまた限界が近付き始めたところで藍流に舌で昂りをなぞられた。
溢れる蜜を掬い取るように舌先で先端を弄られて腰がガクガクする。
「も、むり…! …っぅあ!」
「っ…」
藍流の口に白濁を吐き出すと同時に流風が俺のナカで果てる。
流風の頬を伝う汗が綺麗だな、とぽーっと見つめていたら、藍流が口内に吐き出された欲を喉に通して微笑む。
「奏がすごく可愛い目して流風見てる……嫉妬しそう」
「!」
「嫉妬なんてしなくたって奏は藍流も大好きだよね?」
「…大好き」
こういうの、俺をものすごくどきどきさせる。
藍流はわかってて『嫉妬』なんて言うし、流風もわかってて俺に『好き』って言わせる。
次にくるのはやっぱり、キス…。
「ん…」
流風のキスに蕩けているうちに藍流がナカに滑り込み、熱い昂りに奥を突かれてぞくぞくが駆け上がってくる。
「んぁ、あっ! あ、あっ! …あいる、まって…!」
性急な動きに頭の中が真っ白になる。
弱い場所をぐりぐりされて快感がどんどん俺を呑み込んでいく。
「…ぅあっ!!」
呆気なく達した俺の太腿や脛に流風がキスをする。
「奏、すごく綺麗」
「ん、や…」
流風がうっとりと目を細める。
その真っ黒な瞳のほうがずっと綺麗で、俺は魂が吸い取られてしまいそうな錯覚に陥る。
「ごめん、奏…もうイきそう」
藍流の余裕のない声に欲望が燃える。
受け止めたい。
もっとふたりが欲しい。
藍流の腰に足を絡めると一番深いところで藍流が限界を迎えた。
「…ごめ、止まらない…」
「っあ! ああっ!」
達してすぐなのに藍流は俺の腰を引き寄せる。
快感の波がまた俺を呑み込もうと押し寄せてくる。
流風の熱が昂っているのが視界の隅に入り、そっと触れてキスをする。
「んっ! あ、はぁ…っ!」
「奏…」
「るかも…」
それだけで俺が言いたい事が伝わったみたいで、流風は髪を撫でてくれて頬にキスをくれる。
流風の昂りを咥えながら藍流の熱を受け入れる。
うまくできなくていいって言われたから、ただ一生懸命口を使う。
でも藍流が動く度に集中できなくて歯を立てないようにするのが精いっぱい。
それだけの刺激でも流風の肌が熱くなっていって、俺もどきどきする。
「っん! んん、んっ! ん、ぁ…あっ!」
「奏、…奏」
この世で一番大切なものを呼ぶように藍流が俺を呼ぶので胸が締め付けられる。
流風が唇を重ねるので、それに応える。
もしかしたら愛って美しいだけのものじゃないのかもしれない。
愛って怖いのかも。
満たされれば満たされるほど足りなくなっていく。
どんなに満たされても満タンがなくて、いつまでたってももっと欲しくて仕方ない。
俺はどんどん欲張りになっていく。
もっと藍流と流風の愛が欲しい。
「…もっと…もっとちょうだい…」
もっと、欲しい。
もっともっと…。
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