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ふたり占め#12 ①
始業式、入学式も終わり藍流 は三年に、流風 と俺は二年になった。
二年から三年はクラス替えがないから藍流はそのまま三年E組、俺は流風と同じ二年C組になった。
それだけもものすごくほっとした。
だってやっぱり流風がそばにいるかいないかで心強さが全然違う。
お昼休み、2Cでパンを食べる。
最近は考え事ばっかりしてて危なっかしいからってお母さんから包丁握るの禁止されてる。
三年の赤ネクタイと二年の紺ネクタイがふたり。
そこになぜか一年の緑ネクタイがひとり混ざっている。
「奏 先輩、今日も本当に愛らしい」
「御園 くん…」
「桜弥 と呼んでくださいって言ったじゃないですか」
「…桜弥くん、そういうのは」
「藍流先輩と流風先輩はよくて、なんで俺はだめなんですか?」
「「「……」」」
俺も藍流も流風も、溜め息を吐きたくても出てこない。
御園桜弥くんは、あのお花見デートでぶつかったイケメンくんで、うちの高校の新入生だった。
『お兄さま方、弟さんとの交際を認めてください!!』
藍流も流風も自分達は兄じゃないし交際なんてさせない誰にも渡さないって怒って大変だった。
ふたりをなだめて家まで送ってもらって、別れ際に周りに誰もいないのを確認してから頬にキスをしたら一気にご機嫌になった。
あのイケメンくんはなんだったんだろう、なんて考えてたら春休みが終わって。
入学式で在校生代表の挨拶をした藍流がすぐ連絡してきて、『奴がいる』と。
俺もびっくりした。
そして俺はすぐに見つかってしまった。
桜弥くんは全教室チェックしていたみたいで、その途中で見つかった。
「うちの高校にいなかったらこの近辺の高校片っ端から探すつもりでした」
つまり必ずどこかでは見つかっていた、という事らしい。
すごい執念。
「御園くん、奏の事は絶対譲らないからとにかく近付かないで」
「俺も藍流もとにかく御園くんが奏に近付くのが嫌だから」
「そうですか」
言ったそばから俺の手を取る桜弥くん。
俺が困っていると藍流が桜弥くんの手をぽいっとした。
「触るな。なんでこの学校の生徒会長には権限がないんだろう。あれば即、奏への接近禁止令出すのに」
「ほんとだよ」
藍流も流風もとんでもない事言ってる。
たぶんそれだけご立腹なんだろう。
誕生日にもらったマグボトルで一口お茶を飲むと、藍流と流風も机に置いた色違いのマグボトルを手にする。
桜弥くんはこのお揃いのマグボトルが気に入らないらしく、ちょっと眉を顰める。
「ごめんね、藍流、流風」
「奏はなにも悪くないよ」
「そう。奏は謝ったりしなくていいんだよ」
よしよしと頭を撫でられて俺はちょっとご機嫌になる。
それを見た桜弥くんが俺の頭を撫でようと手を伸ばして藍流と流風が桜弥くんの手を掴む。
「なにしようとしてるの?」
「え? 先輩方の真似を」
「だめに決まってる」
「……」
藍流も流風も大変だ。
俺もだけど。
気を抜くとすぐ触られる。
桜弥くんはさりげなく、すすっと距離を縮めるから緊張しっぱなし。
なんで桜弥くんは俺なんかにこんなに構うんだろう…謎。
「浅羽 くん、人気者だねー」
「お菓子食べる?」
突然、今年から同じクラスになった女子達が話しかけてきた。
「ありがとう」
申し訳ないけど名前がまだ覚えられていない…。
髪をうしろでひとつにまとめているAさんはチョコをくれて、ショートカットのBさんはグミをくれる。
どちらも新発売のものだ。
「浅羽くんは可愛いなぁ」
「ほんとほんと」
よしよしと、なぜか女子達にまで頭を撫でられる。
藍流と流風の様子を確認するとにこにこと俺達を見ている。
桜弥くんがついでに手を伸ばせば、さっとふたりに払いのけられた。
もちろん桜弥くんは。
「なんで女性の先輩方もよくて俺だけだめなんですか」
そうなるよな。
「そんなの、御園くんが下心丸出しだからでしょ」
「藍流先輩と流風先輩も下心あるでしょう!?」
「俺達はいいの」
この三人が仲良くなる事はないんだろうな…。
AさんとBさんが『大変だね』ってこそっと俺に言うので頷く。
休み時間くらい気持ちをゆったりさせて欲しいけど難しそう。
そろそろ予鈴が鳴るので桜弥くんが名残惜しそうに立ち上がる。
「じゃあ奏先輩、またあとで」
「「もう来なくていい」」
「藍流先輩と流風先輩には言ってません」
去って行く背中を見送る。
悪い子じゃないんだけど、なんか…うん。
「奏、なにかあったらすぐ連絡するんだよ」
「うん」
「流風、奏から離れるな」
「藍流に言われなくても離れない」
藍流は念を押して3Eに戻って行く。
流風がようやく息ができると言った感じで溜め息を吐いた。
「大丈夫?」
「うん。ほんと御園くん、転校してくれないかな」
「入学したばっかだよ」
「じゃあ藍流が生徒会長の権限でなんとかしてくれないかな」
「……」
さっき本人も言ってたけど権限なんてないし無理だろう。
でもふたりは俺の事を疑わないから俺も安心していられる。
「…ありがとう」
「なにが?」
「ううん、なんでもない」
流風が不思議そうに俺を見るから、さっきAさんがくれたチョコをひとつ個包装から出して流風の口に入れてあげた。
「甘くておいしい」
「うん」
「奏のキスみたい」
ふにゃっと幸せそうに微笑むから、俺も心がふわっとする。
藍流の分もひとつ残しておいてあげよう。
きっと流風と同じ事を言うだろう。
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