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ふたり占め#12 ③

◇◆◇◆◇ 「奏先輩!」 「桜弥くん…」 どうしよう。 今、藍流と流風は先生に呼ばれて職員室に行っている。 桜弥くんとふたりきりにならないように気を付けてと言われているから、ここは逃げるべきか。 と思ったら桜弥くんはもうすでに隣に立って俺の肩に手を置いている。 俺よりちょっと高くて藍流と流風よりちょっと低い桜弥くんの目線にはまだ慣れない。 「今、逃げようとしましたね?」 「そ、そんな事…」 「奏先輩は可愛いなー」 「……」 捕食されそうって感じる時がある…失礼かもしれないけど。 「俺、四月一日生まれなんです」 「…そうなんだ」 藍流と一緒だ。 でも唐突な話題だな。 なんだろう、急に。 「それで誕生日に大好きな桜を見に行ったら、桜よりもっと素敵な人に出逢えたんです」 「…それは…」 「奏先輩です」 優しい笑み。 たぶん女子だったらきゃあきゃあ言うのかもしれないけど俺には全く効かない事を桜弥くんもよく知っている。 「目が合った瞬間に、この人を絶対手に入れようって決めました」 「勝手に決めないで」 「俺、自分勝手なんです」 「……」 そんな事、笑顔で自信満々に言われても困る。 「俺は絶対桜弥くんのものにはならないから」 「藍流先輩と流風先輩がいるからですか?」 「うん」 これはなにがあっても揺らがない。 「…どうしてですか? 見た目なら俺だって藍流先輩や流風先輩に引けをとらないって言い切れます。性格だってふたりとも特別いいってわけじゃないでしょう? あのふたりのどこがそんなに好きなんですか?」 桜弥くんは理解できないって顔をする。 どこがって…。 「桜弥くんはなんで俺を手に入れたいなんて言うの? 俺、こんな平凡な顔だし性格もよくないよ?」 「奏先輩は可愛いですし、性格も可愛らしい方です!」 「そんな事ないよ」 「奏先輩は自分で自分の魅力をわかってないんです。奏先輩の存在自体が魅力なんです」 「ふーん…それならわかるかも」 そういう感じ、確かに感じた事ある。 「俺にとって藍流と流風がそうだから」 「え?」 「存在自体が魅力。見た目とか性格とか、そういうのじゃない」 「……」 「まあ、あのふたりの場合、見た目も性格もいいんだけどね」 あれ、これって惚気? 自分で言ってちょっと恥ずかしくなった。 顔が熱くなってきて少し俯いて歩く。 「……すみません。俺、用事を思い出したので失礼します」 「あ、うん」 別に約束していたわけじゃないから断らなくてもいいのに、丁寧な子だな。 桜弥くんはひとつ頭を下げてから背を向けて去って行った。 「?」 「奏!」 流風の声が聞こえたので見ると、廊下の向こうから藍流と一緒にこちらに向かってくる。 「!」 俺が小走りで駆け寄るとふたりは頭を撫でてくれた。 やっぱり藍流と流風のそばが安心する。 ◇◆◇◆◇ 『俺にとって藍流と流風がそうだから』 『え?』 『存在自体が魅力。見た目とか性格とか、そういうのじゃない』 なんで俺じゃだめなんだ。 やっと出逢えたのに。 やっと見つけたのに。 あと一年早く生まれていれば確実に奏先輩は俺のものだった。 あのふたりと同じ位置に立っていたら絶対勝っていた。 どうしたら手に入る? どうしたら…。 ◇◆◇◆◇ 「御園くんと一緒にいたの?」 「…うん。いたって言うか見つかったって言うか」 「無事でよかった」 藍流も流風も俺の手を取ってぎゅっと握る。 桜弥くんの去って行ったほうをなんとなく見ると、ふたりも一緒に同じ方向を見てから俺を見る。 「なに?」 「御園くん、気になる?」 「不思議な行動するから気になるって言えば気になるかも」 「それだけ?」 「うん」 流風も藍流もなにか意味ありげに聞いてじっと俺を見る。 もしかして。 「嫉妬してる?」 「「うん」」 頷いて、自分達をかまってって顔をする。 可愛いなぁ、もう。 「嫉妬なんてしなくたって大丈夫だよ」 頬をふにっと抓むとふたりはすぐにご機嫌になって、三人で一旦2Cに向かった。 「あ。浅羽くん、戻ってきた!」 「?」 教室に戻るとみんながざわっとした。 なんだろう。 「どうしたの?」 藍流が聞くと。 「それが、あの一年の…御園くんだっけ? 彼が、『奏先輩を資料室に呼んでもらえませんか』って色んな人に声かけてて」 「桜弥くんが?」 なんで資料室? そんなところ、普段人が近付かないのに。 藍流と流風を見ると怖い顔をしている。 「みんな断ったけど、浅羽くん、気を付けてね!」 ぎゅっと手を握って真剣な顔で言われる。 「う、うん。ありがとう」 鬼気迫る表情ってこういうのを言うのかも。 でもなんで桜弥くんはそんな事を始めたんだろう。 「奏、単独行動禁止」 「え?」 「必ず誰かと行動する事」 「…うん。わかった」 流風と藍流にそう言われて頷いた。 のに。 「奏先輩…」 なぜかまた桜弥くんとふたりきりになってしまった…。

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