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第8話
圭吾の部屋の端末がなっていた。
部屋へ着いてからは、買ってきたもので酒盛りが始まってしまい、バカな話で盛り上がっている時の呼び出しコールである。
「嫌な予感がする」
と、圭吾はさほど酔っていない足取りで端末へ向かう。
普段なら携帯端末で済むのだが、こういう本体が…特に電話機能が鳴る時は高確率で嫌な連絡の時だ。なんせ相手はきっちりと顔を見て話すことを要求していると言うことなのだから。
圭吾は送信者の顔を画面に表示する。
「やっぱりやな電話だったな」
「聞こえてるぞ、カーランクル」
ジョイスのセカンドネームを呼んだのは、麻薬取締特捜部の部長だった。例の、空港で圭吾に逃げられたあの、部長さんである。
「はいーすいません」
ジョイスは背筋を伸ばして敬礼すると、向こうから見えない位置へコソコソと移動した。
「何も隠れることはないだろう」
呆れた部長さんの声がして、圭吾も色んな意味でのため息をつく。
「それで、何か御用ですか?」
圭吾たちは実質上、今は少年課のお巡りさんなのだ。その少年課に麻取の部長さんが何の用があると言うのか。
部長さんはーはぁぁ〜ーとそれは深いため息をついた。
「何か用ですか…?と、言うんだな?」
渋めの声がそう伝えると、圭吾はーしまったーとは思ったらしい。ガックリと頭を下げて
「いえ…あの…」
口籠る。今日の空港の一件を失念していた。
「まあ、用があるのは確かだ。カーランクルも一緒なら手間が省けていい。明日午前10時に私の所へ来るように」
圭吾は胸騒ぎがした。が、そんなことはお構いなしに、
「部長!お言葉ですが、我々は今休暇中で…」
午前10時なんて、休みの日にとんでもない!とばかりにジョイスがカメラの前に割り込んで来る。
「おまえ、やめろ」
小さな声で圭吾が言う間に
「カーランクル…お前は自分が何をしたのか判っていないようだ…」
「あ…」
「今から空港の被害状況と、したくもない裏工作、厄介な裏取り引き、空港の片付けの顛末等々、じっくり聞かせてやってもいいんだぞ」
部長さんの言葉が一層静かさを増している。傍で声だけ聞いていた蒼真と翔も『おっかね〜』と密かにビビっていた。
ジョイスは慌ててカメラから引っ込んで、遠くの方から
「ジョイス・カーランクル!明日10時にウォーターミッツ部長の元へ出頭いたします!」
と叫ぶ。見えない位置ながら、ちゃんと敬礼はしていた。
「酔ってんの?」
蒼真が翔にきく
「らしいね」
翔も苦笑してジョイスを見上げている。
「よし、高梨は」
「高梨圭吾 出頭いたします」
「んっ、それでは明日」
そう言って画面は消えた。
「はあああ〜〜」
大きなため息と共に、ジョイスはソファーへ音が経つほど乱暴に座る。
「あんまり馬鹿なことしてくれるなジョイス」
戻りながら、圭吾はジョイスの足を蹴る。
「大丈夫だよあのくらい。だいたい年寄りは朝が早くていけねえや」
言いながら、目の前の水割りをぐいいっと空けた。
「さて、じゃ明日早いことになったし、俺帰るわ」
「泊まって行ったらどうだ?どうせ明日一緒に出頭だし」
座ろうとしたが、帰ると言うので取り敢えずたったまま圭吾は言う。
「いや〜ほら、愛しのキャシーが待ってるんでね〜」
「キャシー?」
蒼真が怪訝な声を出す。
「ウサギのことだ」
と圭吾が教えてくれる。蒼真は『はっだろうね』と、最後のピザを取り上げた。
かっわいくねえ〜〜〜と呟いて、ジョイスはキッチン脇へゆき、エレベーターのボタンを押した。
到着後、見送りについて行った圭吾は
ー
「なんでそんなに仲が悪いんだ?蒼真とジョイス 」
と、ジョイスに聞いてみるが、さあ、と言って開いたドアへ入って行った。
「じゃあね〜翔ちゃん。また明日」
「はい、明日。あ、今日はご馳走様でした」
「いやいやいいんだよ〜〜」
翔にだけ手を振って、にこやかに去ってゆく。
「気をつけてな」
「あいよ」
ドアが閉まって、リビングに戻ると蒼真は仏頂面でケーキを食べていた。
圭吾は翔と顔を見合わせ、お互いに肩をすくめあった。
この2、3時間でジョイスは翔を宥めることに成功していたのだ。圭吾は蒼真に目をやり
「翔がもう怒ってないんだから、お前もいい加減にしろ」
頭をポンとたたいて、圭吾はその場に座った。
「翔、眠いのか?」
圭吾の手伝いをしてあらかた片付けた頃、翔がソファでウツラウツラしていた。
「ん…ちょっとな。あの薬から無理やり目を覚ましたみたいなもんだから、少し残ってるのかな」
強い薬だったよな…と蒼真が言う。
自分なんかは多分だけど缶に塗られただけのを一部飲んだだけだったのに、丸一日眠ってしまったのだ。
注射器 で打たれた翔などは量が半端ない。
「じゃあ休むか?」
そう言いながら圭吾は寝室へ入り、寝具を取り替えた。
「そうさせてもらえ、翔」
「うん。じゃあおやすみなさい」
圭吾にぺこりと頭を下げて、寝室へ入ってゆく。
「じゃあ俺はシャワー浴びさせてもらっていいかな」
翔が寝室へ入ったのを見届けて蒼真が言う。
「ゆっくりするといい」
「一緒に入る?」
その言葉に圭吾はつい寝室のドアを見てしまった。
「あ、やらしいこと考えた!じゃあ入らない」
そんなことを笑いながら言って、蒼真は浴室へ向かう。
振り回されてるなぁと思いながら、圭吾は画面に映っている映画に目をとめた。
数分して浴室から蒼真に呼ばれた。
「どうした?」
「シャンプーシャワーでないんだよ。なんかコツでもあんの?」
シャンプーを混ぜて直接髪を洗うシャワーで、最近そんな不具合はなかったはずだけどな、と
「どれ、入っていいか?」
と一応確認してからドアをスライドさせた…途端に中へ引き摺り込まれて、普通のお湯シャワーを頭からぶっかけられてしまう。
呆然とお湯を浴び続けたが、
「こいつ!」
笑いながら蒼真からシャワーを取り上げて、頭からかけてやる。背が高い分有利だ。
「ずるいぞ!ケホッ」
顔を何度拭ったところで流れてくるお湯はとめどない。
「返せよー」
圭吾が手を伸ばしてしまうと、蒼真には届かない。ちくしょー と呟いて、蒼真は圭吾が来ていたシャツをボタンごと前を引きちぎった。
「おいー!」
びっくりしたのは圭吾だ。
今日の変装用に今日買った真新しいシャツだ。
「似合わなかったよ?」
しれっとそう言って、濡れそぼったシャツを後手に脱がせにかかる。
その時にあまりに濡れていて圭吾は両手が後ろに回ったまま固定されてしまった。
「ん?外れないな」
まあ、変装用だし好みでもなかったからいいか…と簡単に諦めたまでは良かったが、たった今そのシャツの呪いを受けている。
「あれ、あれ?」
後ろ手にモゾモゾしている圭吾を見て、蒼真はいたずら心がむくむく。
下に来ていたタンクトップの裾から手を入れて、圭吾の胸の色づきを両手で遊び出した。
「蒼真!やめろ、それ。だめだ」
「え?ここ弱いの?ほんと?」
それを知って、蒼真は今度は服をたくし上げ、そこに舌を這わせ始めた。
「翔が起きるぞ…」
1番嫌がることを言ってやったつもりだったが、
「あいつ寝るの早いし、寝たら最低でも8時間は起きないから」
舐めながら言われて圭吾は逆に、唇を噛み締めることとなってしまった。
「腕が外れないと洗ってあげれないからさ?ちょっと遊んでるよ」
胸に舌を這わせながら、手はベルトを外し始めた。
「今日は、翔もいるんだからやめとかないっんっ…」
手を差し入れられてやんわりと握り込まれる。
胸へのイタズラで少し起立していたこともあって、蒼真はくすくすと笑っていた。
圭吾は急な展開に追いつけず、取り敢えずやめさせなきゃと言う気持ちが先に立つ。
「俺は明日早い…し、はっ…今日…は」
そこまで言った時、真ん中に生暖かい感触を感じて身をすくめた。
圭吾がごちゃごちゃ言っている間に、蒼真はズボンを全部脱がせ圭吾の中心を口に含んでいた。
舌を絡め軽く歯を立て、出し入れしたり自ら奥へといざなったり…
「んっ…ふぅ…ああっ」
壁に寄りかかり、なんとか解けた両手で蒼真の頭を掴んで圭吾は快楽の声を上げる。
「いっぱい声が聞けるな…これすると」
口を離して嬉しそうな顔で蒼真が圭吾を見る。腕が解放されたことは気づいていないようだ。
「いきなりだったな…油断した」
唇を形通りに指でなぞってやり、両頬を軽く持ち上げると蒼真は素直に立ち上がった。
そして唇を合わせると、待っていたかのように吸い付いてくる。
今まで自分を刺激していた舌を、今度は自らの舌で堪能して圭吾は蒼真の後の真ん中へ指を這わせた。
「んっ」
差し込まれた指は蒼真の中をかき混ぜ、唇の快楽と共に腰が揺れ始める。
その時やっと圭吾の腕が自由になっていることに気付いたが、それはもうどうでも良かった。
「んぅ…はぁ…はっぁあ」
腰を揺らすと圭吾の物と触れ合い、そこからも快感が襲ってくる感じに蒼真は堪らなくなってきた。
「ふぅ……ん あぁ」
声が甘えたような色に変わり、その声に圭吾は蒼真と場所を入れ替わり壁に手をつかせる。
「後ろからが好きだったな」
そう言って蒼真の腰を持ち、既に起立し切った自分を蒼真の中へと進めてゆく。
「あああああっ」
壁についた手を突っ張って、蒼真は反り返った。
圭吾が抽送を繰り返すと、今度は頭が下がり腰を圭吾へと押し付けてくる。
「ああ…気持ちぃ…あっあっ圭吾もっと…もっと来て」
ゆっくりと攻めたかったが、蒼真は最初からもうその気だったらしく、求めが激しかった。
今まで掴んでいた手を蒼真の中心を掴むのに当て、腰の動きを激しくしてゆく。
「あっあっああっいいっああ」
蒼真の中心も角度が激しく、そして硬い。最初に行かせてやりたい、と圭吾は腰を音がなるほど打ち付け、それと同時に手の動きも早める。
「だめ…だめだめっ圭吾だめって!ああっあっああんっっイ…っ」
蒼真の動きが止まり、浴室の床…というか壁に向かって蒼真の液体が迸った。
「じゃあ今度は…」
とイったばかりの蒼真に意地悪をするように再び腰を動かし始め
「あっ…ほんと…にダメっだめ、あっあぁ」
打ち付けられる腰に自らも揺らし、圭吾の射精を手伝うようにくねらせる。
蒼真の中がうねって、圭吾を締め付けもう限界を越えようとしていたタイミングで、
「っ…くっ…ぅ…」
再び持っていた蒼真の腰に当てた手が強く握りしめられ、圭吾は蒼真の中に精を発した。
はぁはぁと息を吐き、圭吾が蒼真から抜けた後蒼真は床にへたり込んだ。圭吾は
「大丈夫…か」
と声をかけ、座ったまま壁に寄り掛からせる。
暖かいお湯をかけてやりながら、ボディソープのシャワーをあてて中心を洗い、もう一度ー大丈夫かーと問いながら軽く唇を合わせた。
「いきなり引っ張り込まれてどうしようかと思ったぞ」
流石の圭吾も笑ってしまう。
「圭吾が…やりたそうだったからさぁ」
気だるそうにそう言って、蒼真も笑う。
「人のせいにするんじゃないぞ?」
「へへ」
と照れて、蒼真は圭吾を『洗ってやる』とシャワーを受け取った。
立ち上がって後ろから流すだけのボディーシャンプーをかけていた蒼真は、その背中に額を乗せる。
「どうした?」
「さっきの電話…俺らのせいだよね。明日何言われるんだろうな。首なんて言われたら俺…どう責任とっていいか…」
圭吾はつい壁に手をついてしまった。
ーありえない話ではない…ー
そう思いながらも、蒼真もそのことを気にしたいたんだなと気付き、不用意に呼び出しを見せてしまったことを少し後悔する。
「仕事で来てたんだもんな…それを俺らが…」
圭吾は振り返って蒼真を抱きしめた。
「大丈夫だ。何の確証もないけど」
言って自分で悲しくなる。
「でもな?」
「うん?」
「俺は、もしもクビになったって、あの時蒼真と翔を助けなければ良かった、なんてことは絶対に思わない」
蒼真はその言葉が嬉しかった。なぜかものすごく嬉しかった。
「どうなるかわからないが、ともかく明日になってみないと何もわからないし」
今度は蒼真にお湯をかけて、丸洗いしてやる。
「何もかも明日にならないと…だな」
蒼真もそう言って圭吾を丸洗い。2人はスッキリと…色んな意味でスッキリと浴室をでた。
「飲むか?」
ディスペンサーで水を汲み、蒼真に見せる。
「要る!」
と手を伸ばし、水がぶ飲み。
そりゃあ風呂場であんなことをすれば…と圭吾も美味しそうに水を飲む蒼真を見て、自分もだなとグラスを用意した。
「あの時はさ…」
リビングに戻って、2人でソファに座っていた。
「本当にどうしようかと思ってたんだ」
MBLの特別機の中での話をしていている。
「ハワードの部下だっていう女がいてさ、ボスのところへ戻す話ばっかするし、でも俺たちにはもう助けもなかったし…色々考えてみてもどうしようもなかったんだ」
その時に圭吾がいたと目を見つめてきた
「ほんとにさ、神様に見えたよ」
そう言って笑うが、その時の心情から言えばそうだったのだろう。
戻されて翔は嫌な実験体に、自分はどうなるかわからない瀬戸際だったのだろうから。
「本当にありがとう…」
相変わらず顔を見て言えない蒼真だが、その気持ちは助けた直後同様伝わってくる。
どんな生き方をしてきたのかはわからないが、今まで辛い中で生きてきたのが窺える。これから先の蒼真の人生は自分が…とそこまで考えて、何を考えているんだと内心焦った。ーどうかしてるー自分で自分を叱咤して、色々考えた末に
「この件が…どうしたらいい方へ収まるのか…それを一緒に考えよう」
という言葉を紡いだ。今の気持ちに一番近い。
しかし圭吾の優しい言葉ではあったが、蒼真は『無理…かなぁ』と心の中で呟いていた。
肩を抱かれ、蒼真は身を預ける。
どうしても守りたいと思ってしまう。どうしてしまったのかと自分に問うが、分かりきったことをわかっていないふりをしているのにも気づいている。しかし今は、そのままにしておきたかった。
「圭吾」
呼ばれて顔を見るとキスをされた。
もう一回戦…いくか?
真面目なこと考えていたのにこいつは…と苦笑して、深く唇を合わせる。
「2回戦でおわるかな…」
と、不穏なことを言って、ソファへ横たえた。
「蒼真、風邪ひくぞ」
最後にイきついてそのままぐったりとしていた蒼真を綺麗にしてやって、圭吾は寝入りそうな蒼真を起こした。
「も…おしまい…眠くてだめ…」
圭吾の手をやんわりと払い、蒼真はうつ伏せになってしまう。
「そうじゃない、蒼真、ベッドへ行って寝ろって」
変な勘違いに圭吾は苦笑して蒼真をそっと抱き上げた。
「ベッド行ってなにすんだよ…」
「いいから大人しく寝ろ」
あれこれ言う蒼真に辟易して、スライドボタンを押し、寝室へ入る。
ベッドにはスースーと寝息を立てている翔がいるが、キングサイズのベッドにもう1人寝かせるくらいは問題ない。何なら自分もそこに寝ようと思っているくらいだ。
蒼真を翔の横にそっと降ろす。
「おやすみ圭吾…」
「ああ…おやすみ」
ドアが静かに閉まり、圭吾ははぁ…と息をついた。
蒼真との行為はいつも忙しない。
たまには一緒のベッドで朝を迎えたいものだ。と呟いて、もう一度シャワーを浴びに向かった。
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