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第13話
月がとってもあおいから〜〜などと、とんでもなく古い歌を口ずさみながら、蒼真と圭吾はマンションのステップをよいしょっと掛け声を掛け合って登り詰めた。
「さんじゅうよんかーい」
エレベーターのパネルを操作して圭吾の部屋の階数を指定する。
ふうっと圭吾は壁に寄りかかった。久しぶりによく飲んだと実感する。
「やらしいなぁ、何笑ってんの?」
蒼真が向かい合いに体をすり寄せて、圭吾を見上げる。圭吾は192cmで蒼真が175cmなので、17cmの差。
「そう言うことを考えて笑っていたわけじゃない。そう言うことなんて考えたこともないからな」
そう言いながら両手で腰を抱いて屈みながら頬にキスをした。
「嘘つきがいる…」
蒼真が背伸びして唇を合わせる。
「今からやらしいことしようとしてる?」
「そう言うわけでもない」
と言いながらもう一度キス。
「嘘しか言わないじゃん」
蒼真が笑って、今度は背伸びしながら首に両手をかけ、深く唇を合わせた。
深く合わせられるように蒼真の腰を抱き締め、お互い貪るように唇を交わし合った。
エレベーターはとっくに部屋で止まっているのに、気づかずにいたが、圭吾の指がパネルと叩くと、ドアが開き2人は唇を合わせたまま部屋へ入っていく。
何度も何度も角度を変え、息をするのさえもどかしく唇を貪る2人は、お互いの服に手をかけ、唇を合わせたまま上着を脱がせ、シャツを脱がせた。
時々唇が外れるが、そんな時は笑い合ってまた合わせると言うのを繰り返す。
2人はすでに上半身は素肌になった。
蒼真のパンツはベルトがなく、圭吾がボタンを外しファスナーを降ろすと、痩せ型の蒼真の足からパンツは見事に床に落ちていった。それを邪魔そうに足で払って、蒼真は圭吾に抱きついた。
圭吾の手はアンダーウエアから蒼真自身に触れ、唇を首筋に這わせると蒼真から声が漏れる。
蒼真も圭吾のベルトを外し、パンツを引き摺り下ろした。
しゃがんでおろしたついでに、アンダーウエアの上からお返しとばかりに舌を這わせる。
「そっ…汗ばんでるから、それはやめ…っつ…」
圭吾の汗なんてなんでもなかった。もっともっと触れていたい、もっともっと感じていたい一心で、蒼真はアンダーウエアを下ろし、直に圭吾を口に含んだ。
まだ少し不十分なソコは、蒼真の舌で次第に角度をつけてゆく。
「そ…ま…」
寄りかかるものもなく蒼真の舌を受け、バランスを取りながら少し前屈み。
「んっ…ふぅ…」
「これするとさ…圭吾の声が聞けるから…」
一言そう言うと、今度はわざと音を立てて吸い上げたり舌を回したり…
「蒼真…だめだ…先にいくわけには…はっ…」
お酒のせいか、少し時間はかかりそうだと思ったが、このシチュエーションと舌使いは酔いは関係なく登り詰めさせられそうだ。
「いいよ…先でもいいから…」
口の動きを変え、指で擦り上げるのと並行して行われる行為に圭吾は堪らず
「っ!…くぅ…」
蒼真の口の中に放出してしまう。
いつものことだが、蒼真はそれを飲み下してしまった。
「圭吾の味…もう覚えちゃったよ…」
吸い上げるのは簡単だったが、ここで圭吾に満足してもらっても困るからしないでおいた。
最後に圭吾の味を味わえてホッとした。絶対に忘れない。
「思ったより早かったな…」
「俺が良かったってことじゃん?」
立ち上がって蒼真がそういうと、じゃあ今度は…と蒼真を抱き上げ、木造りのあまり使わない調理台へ蒼真を座らせた。
「何すんの…?」
「お返しだ」
座らせた蒼真の足を開き、こちらもアンダーウエアの上から舌を這わせる。
蒼真自身は既に起立していて、アンダーウエアの中で弾けそうだったので圭吾はそれを脱がせ、腰を抱えると自分の方へ引き寄せて、引き寄せて、調理台から落ちそうになって蒼真が圭吾にしがみついた瞬間に、圭吾が蒼真の中に挿入された。
自重 で深く穿たれたところは急な刺激にキツく締まり、意外な刺激に圭吾も思わず目が眩む。
「はぁ…あっああっんっんっ」
不安定な感じで揺らされて、蒼真がのけぞるとすかさず圭吾の舌が胸の色付きを刺激する。
「圭吾…けいご…ちょっと…まって離れて」
圭吾にしがみついていた蒼真が、身体を離し懇願するように圭吾の頬を両手で挟んだ。
「なんだ…?」
「ね、早く…」
圭吾が抜ける感覚に、ほんの少し惜しい感情を残して蒼真は床へ下り立ち、ふらつきながらテーブルまでゆくと、テーブルの上にあった細々としたものを全て薙ぎ払うと、そこへ圭吾の方を向いて座り足を開いて
「来いよ…」
と両手を後ろへと付いた。
圭吾は今日見た映画を思い出し、少し笑いながら開いた足の間に身をおいて再び蒼真の中へ身を進めると、緩やかに揺らし始める。
「んっんぅ…はぁ…やっぱこっちの方が痛くないや…」
圭吾の侵入にその身をそらせながらそう呟く。
どうやら中空で揺らされている時に、角が腰に当たっていたらしかった。
「気づかなくて悪かった。大丈夫か?」
背中に手を回し起き上がらせながら、優しくそう言ってキスをした。
「へいき…だから圭吾…もっと…もっと来てよ…」
蒼真のその求めに、圭吾は黙って従ってやる。
「あああっ…あっあっ!いい…ああ…」
テーブルの上に倒れ込む蒼真に重なって、圭吾は唇を合わせた。
足を圭吾に絡め、圭吾との間で中途半端に反応を見せている自分自身に焦れながらも、揺らされる感覚に合わせるように、唇の息を荒げる。
今日見た映画は、『氷の微笑』と『郵便配達は2度ベルを鳴らす』のリバイバル二本立て。
どちらが選んだというわけではなく、2本やってるからそっちで、くらいの感覚で見始めただけだ。
「はぁ…はぁ、あっ ああっあああ」
映画の扇情的なシーンが頭をよぎっているのか圭吾の動きも次第に早まってくる。
「あ…けい…ご…ああっああっ」
動きが早まっていた圭吾が、ぐいっと腰を押し付けた瞬間に圭吾は弾け、蒼真も身体を震わせて、体の間で弾けていた。
気がつくと端末が鳴っていた。携帯端末の方ではなく本体の方だ。
圭吾はその音に目を覚まし、いつベッドへ入ったっけと首を傾げながら立ち上がった。
時間を見ると午前5時。夜明けだが、人様の家にコールを入れるには些か非常識な時間だな、などと考えながら端末を開くと画面の向こうにいたのは傷だらけのジョイスである。
「ジョイス!どうした」
一気に目が覚めた圭吾は、端末にやっとしがみついているようなジョイスに声をかけ続けるが、ジョイスから声は聞こえない。
「ジョイスがなんだって?圭吾、どうした?」
圭吾の声で起きたのか、ジョイスの元にいた翔に何かあったと思って起きたのか定かではないが、いつもなら起こしても起きない蒼真が飛び出してきた。
画面に映るジョイスは、あれだけ喧嘩なれしているはずなのにボロボロで、油断していたとしか思えない傷だ。
顔は腫れて、身体もきっとしたたかやられているはずだ。
「何があった!」
圭吾に連絡を入れるのがやっとだったのか、ジョイスは荒い息を吐くだけで質問に一切答えられる状況にないらしい。
「待ってろ、すぐに行く。詳しい話はその時だ」
「ちょっと待て、ジョイス!翔は⁉︎翔はどうした!」
回線を切ろうとした圭吾の手を止めて、蒼真が割り込んだ。ジョイスはしがみついて苦しい顔をゆっくり上げると、これだけは伝えなきゃと思ったのか一言
「わ…りぃ…」
とだけ言って崩れ落ちていった。
「悪い ってどういう意味だ!ジョイス!顔上げろ!」
画面に食いついてゆく蒼真を圭吾は羽交締めする様に引き剥がし、
「落ち着け、とにかく行ってみないことには始まらない。やつの容体も心配だ」
「ジョイス の具合なんてどうでもいいっ。翔だ、翔はどうしたんだ」
回線を切ってからの蒼真は動揺しまくっていて手のつけられる状態じゃない。
「しっかりしろっ。まだ詳しいことを聞いた訳じゃない。何が起こったのかもわからないんだ。とにかく行くしかない」
寝室へ蒼真を引っ張り込むと、無造作に服を放り投げて
「着替えろ、すぐに出る」
簡単に着られるパーカーとカーゴパンツで、2人は部屋を飛び出していった。
ジョイスの部屋は物が散乱していて、争った跡が生々しい。
圭吾は勝手知った部屋へ入り込み、端末機のある部屋へ向かった。
「ジョイス!」
床に倒れているジョイスを担ぎ上げてベッドへ寝かせると、意識を失っていたようだったがベッドへ下ろされた瞬間に目が開いた。
「けい…ご…か」
「ああ、一体どうした」
怪我の状態を見ながら、圭吾はベッドのメディカルチェックのボタンを押した。
このチェックで内臓に傷がついたかどうかがわかる。
蒼真は膝をつく圭吾の後ろで、黙ってジョイスを見下ろしていた。
「急だった…誰かと思ったんだよ…こんな時間にインターフォン鳴るからさ。だから…カメラ見たんだ…そしたら…」
ジョイスの視線が圭吾から、今にも爆発しそうな蒼真へと移ってゆく。
「蒼真 がいたんだよ…」
「え?」
と振り返ると、蒼真の方が驚いた顔をしていた。
「翔は…?」
呆然としたまま蒼真が問う。
「だから俺…お前の悪戯かと思って、ドア開けちまって…そしたらいきなり顎にくらって、そのまま無抵抗で殴られっぱなし…」
「そんなこと聞いてない!翔は!」
蒼真の声が荒ぶった。
「すまん…連れて行かれた…」
ここは安全だと思ってたのに…俺のせいだ… そう呟いて、蒼真は走り出した。
「蒼真!」
追おうとして圭吾はジョイスを振り返る。
「追えよ…逃げられでもしたら、今度こそ俺たち…」
立てた親指を首の前で横に引いてみせた。
「すまん、すぐ戻る」
圭吾の足音を聞いて、ジョイスは目を閉じた。
「不覚だったな…受け身も取れなかった。でもなぁ…確かに蒼真 だったよな…」
「蒼真!待てっ待てって!どこへ行くつもりだ」
ジョイスのマンションを出て、一つ目の交差点で蒼真を捕まえた。
「離せっ!離せよ!」
通りの向こうは繁華街なので、こんな時間でも人が多い。圭吾は暴れる蒼真を抱えて脇道へと入り込んだ。
「離してくれ圭吾。ハワードだ。ハワードなんだよ急がないと翔が…」
「解るようにちゃんと話せ。話してもらわなければ何もできない。なぜハワードなんだ。ちゃんと話してみろ」
蒼真は戸惑った。話さなければ解ってもらえないのは判ってる。でも、今はそんな時間はなかった。ジョイスがあれだけ叩きのめされたのだから、とりあえずMBL の人間ではない。どこかの組織が依頼を受けてやったに違いないのだ。
だから今探せばまだ翔がMBL へ行く前に救出できるかもしれない。
「アレを使ってきたのなら、ハワードは本気だ」
「アレ…?」
「とにかく時間がない。圭吾ごめん…楽しかったよ…ありがとう」
言いながら、圭吾の鳩尾に渾身の拳を埋め込み、体勢を崩した圭吾をそのままに蒼真は後退りする。
「そう…ま…なんで…」
圭吾の声に蒼真は一瞬躊躇したが、クルッと身を翻して走り去っていった。
医療関係者だからなのか、的確な急所で圭吾も咄嗟に動けなくて追うことができない。
遠ざかってゆく足音をききながら、圭吾は壁に手をついてその後ろ姿を見送っていた。
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