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第4話 1章 出会い
この離れ屋は、『若君の離れ』と呼ばれ、義政とその側仕えのものだけが入ることが出来る場所だった。
義政の欲求を満たす場所。義政の欲求は、ゆがんだものだった。
父の義定も黙認していた。義政は次期当主として、正室も娶り、子もなしていた。次代の当主として責任を果たしていれば遊びの範囲として許容できる、それが義定の考えだった。
側室を囲うのと同じか……。いやむしろ、側室を囲うよりいいと思われた。
義政の正室は、甲斐の守護大名竹原家の姫。側室に悋気を起こされたら、ある意味政治問題にもなる、そう思われたのだ。
武家の跡取りとして、子を成すのは必須であったが、側室に子が出来るのもそれはそれで波乱を含む。
その点、男を相手にするなら心配いらない。
それも相手が下男だったら、何をやっても許されると思っていた。
義政の正室は、夫の性癖を知っていたのか? 何も知らなかった。侍女たち女に手を付けることには目を光らせたが、離れは側仕えらと語らう場との認識でいた。
佑三は、十二でここに連れて来られて以来五年、この離れ屋が生きる場だった。
義政は、親兄弟を一度に失くし、絶望に沈む少年を更にどん底に沈めた。悪魔の所業と言っていいだろう。
男は勿論、女の体も知らない少年の体を無理矢理蹂躙し開かせた。
自分だけでなく、側仕えの者達にも蹂躙させ、それを眺めるのも楽しみの一つだった。義政のゆがんだ性癖と言えた。
佑三を、自分の手で喘がせるのも面白いが、他の者の手で喘ぐのを見ながら酒を飲むのは格別のものがあると思っていた。
佑三は、来る日も来る日も誰かに犯され、体を開かせられた。道具を使い責められことも常だった。
すすり泣き、許しを請いながら、佑三は己の運命を呪った。
しかし、死のうとは思わなかった。今にここを脱出して、身を立てる。それが、佑三の強い思いだった。
時は、戦国下剋上の世だ。不可能ではない。必ず成せる時が来る。佑三は、そう強く思っていた。
それだけが、生きるよすがと言えた。
一人生き残った自分が死ねば、誰が討ち死にした両親と兄の無念を晴らすのじゃ。
その思いが、佑三を強くした。
この地獄の環境で、驚異的な精神力だろう。
この精神力こそ、佑三の最大の強み。佑三は、この強力な精神力を武器にこの後も生きていくことになる。
「高階の人質がきた。十二歳で中々の容姿じゃ。あらかじめ父上からもらい受けておいて良かった。わし付にしてもらったから、後はどうしよが、我の勝手じゃ」
義政は、五年散々弄んできた佑三に、最近飽きを感じていた。年齢的にもそろそろ限界かと思っていた。
十七になり、声が変わり髭も生えてきた。背も自分と同じくらいになり抱き心地が悪い。
そろそろお払い箱か……。
だがそれには、新たな玩具がいる。遊ぶのは男に限ると思っていた。
佑三もそうだったが、清廉に育った汚れ無き少年、それが望みだった。
手垢の付いてない生童、それを無理矢理犯すからいい。それが義政の思いだった。
佑三の後釜になる者はいないか? ここ最近の義政の懸案事項だった。
誰でもいいわけではない。かなりの無体を働くため、家臣の子息や、ましてや重要な家の人質ではいけない。
かといって、下層の者には食指が動かない。その点、佑三はぴったりだった。
それなりの家柄に育った者を、蹂躙して絶望の底に沈めるから面白いのじゃ。そう思っていた。
まさに悪魔と言えた。
悪魔は、次の生贄を探していた。
側仕えの情報で、高階家から人質が来ることを知った。更に探らせると、己の求めている玩具にぴったりに思えたのだった。
高階家なら、弱小大名、たかが知れている。高階の人質など大切に扱う必要はない。
高階の人間が知れば、驚愕するようなことを義政は思っていたのだ。
早速、父義定に仙千代をおのれ付にすることを願い出た。
義定も、薄々義政の思惑は感じたが、あっさりと承諾した。
重要な人質であれば、無体は出来ない。しかし弱小の高階の人質、手荒な真似は出来ないが、義政の玩具にするくらいはいいとの考えだった。
性奴隷に貶めることが、手荒に扱うよりましとは思えないが、そこがこの子あってこの親あり、まさに似たもの親子と言えた。
仙千代は勿論、父の高階成定も知らないところで、仙千代のこの先の運命は決まっていた。
理不尽と言えば、これ以上の理不尽はないだろう。
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