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第3話 1章 出会い

幾分呆然とする仙千代を、残った義政が舐めまわすように見る。仙千代は首筋から、ぞわっと悪寒を感じ言い知れぬ不安を抱く。 「そなたいくつじゃ?」 「はあっ、十二歳になりましてございます」  十二か……この様子じゃ当然生童じゃろな、他の者の手垢のついた者などごめんじゃからのと、義政は思う。  この分じゃ、女も知らぬだろうな……。ふふっ、父上にお願いしてわし付に下げ渡してもらい正解じゃった。  当然仙千代は、義政の思いは知るよしもないが、気配に不穏なものを感じ、冷や汗も出て体がじっとりとしてくる。 「そなたも今日は疲れておろう。ゆっくりと旅の疲れをいやすとよい。勤めは明日からでよい。明日は使いの者をよこすゆえ、それに従ってくるがよい」 「はあっ、過分のご配慮痛み入ります。明日から懸命にお仕えいたしますゆえ、どうかよろしくお願いいたします」  懸命に仕える……どのような勤めか分かっておるのかこやつは……そう思いながら義政は小姓を従え去っていった。  出ていく義政を頭を下げて見送りながら、仙千代はほっとしていた。不穏な空気感に堪え切れなくなっていたためだ。  義政に対して、何か言い知れぬ不安を感じた。  しかし、我を思いやってお勤めを明日からにしてくださった。お優しいお方かもしれない。  仙千代は、前向きにとらえて不安を吹き払った。 「若様! お目通りは無事おすみになりましたか?」  戻って来た仙千代に、三郎が心配げに問う。三郎も一人心細い思いで待っていたのだ。 「ああ、無事終わった。太守様の命でわしは若君様付きになる。お仕えするのは明日からでよいとのことじゃ」 「そうでございますか、若君様の小姓ですか。明日からでしたら、今日はしっかりお疲れを癒せますな、ようございました」 「若君様のご配慮だ。お優しい方のようじゃ。明日からしっかりとお仕えせねばな」  この時の仙千代は、三郎共々若君義政の小姓として仕えると思い込んでいた。  大高城で父の成定も言っていた通り、通常年若い人質の処遇は小姓と決まっていたからだ。ゆえに仙千代は、太守義政の小姓になるつもりでここへ来た。  それが若君の小姓に変わっただけだ。そう思っていた。太守か若君か、それ自体大差のないことだった。  仙千代の認識が間違っていたわけではない。誰しもがそう思うだろうし、それが世間一般の認識であった。  ただここ松川家には、世間の常識、いかに戦国の世と言えどある不文律が通らない、無法地帯があった。  それは、松川の強力な力で守られた無法地帯。  その存在を、この時の仙千代は知る由もなかった。 「佑三! 何をしておる? まだへばっておるのか? 昨夜は散々あやつらからも可愛がられたからの」  義政は、離れ屋に入ると佑三を呼んだ。ここ離れ屋は、義政が父義定の許しを経て自分専用に使っていた。この離れ屋こそ、松川家の無法地帯であった。  立花佑三は、三河の領主安武家の重臣の三男として生まれた。  三河は、駿河と尾張に挟まれ不安定な土地柄ではあったが、穏やかな両親と、優しい兄二人に囲まれ幸せに育った。  しかし、その平和は一瞬にして消え去った。五年前十二歳の時、安武家は松川に攻め込まられ父と兄二人は討ち死にした。  一人残った佑三は、捉えられ下男として連れて来られた。一生を奴隷としてこき使われるためだ。  通常はそう言った場合、下働きの肉体労働に従事させるのだが、容姿が良かったため、義政の別の意味の奴隷にされた。  義政の性奴隷……それが佑三の立場だった。

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