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第15話 2章 凌辱
佑三は、仙千代が休んでいる間にと、三郎を訊ねた。仙千代が、離れ屋で暮らすことを伝えねばならない。
「えっ! 若様はお戻りにならないのですか? 今日だけでなく、そのままあちらでということですか?」
「そうなのじゃ、若君様の命でな。何か言付けがあれば、わしが承っていくが……」
「はあ……しかし、わしがお側におらんと。わしが、通うわけにはいかんですか?」
「そうですな、明日わしが若君様にお願いしてみるから、それまで待ってはくれないか?」
「わかりました。佑三さんには手数を掛けますが、よろしゅうお願い申し上げます。しかし、若様大丈夫じゃろうか?」
心配げな三郎を、何とか宥めて佑三は離れ屋へ戻っていった。
佑三は、仙千代の様子が心配だった。静かに部屋に入り、そっと様子を窺うと、仙千代は眠っているようだった。食事はそのまま、手を付けていなかった。
ここに来てから何も口にしていない。朝餉を食べただけだろう。それも心配ではあったが、このまま寝かせてやろうと思い、静かに部屋を出た。
明日の朝は、滋養のある粥を作ってやるといいなと考える。弱った体にしみこむような……何を入れようかと考える。
そんなことしかしてやれないがと、自嘲気味に思う。
翌朝、仙千代の部屋に行くと、仙千代はまだ眠っていた。そっと側によると目は開いていた。
横になっていただけだろうか? 眠れたのだろうか? 表情のない仙千代に心が傷む。
「仙千代殿、眠れましたか?」
仙千代が、僅かに頷く。
「では起きて、朝餉にしますか? 昨日の夕餉を食べておらんから腹がすいておろう」
しかし仙千代は、頭を横に振る。食欲などないのだろう。それは、佑三にも分かる。だが、食べねば力にならない。
「粥なら入るのではないか? そう思って作ったのじゃ、今持ってくるゆえ、待っていてくだされ」
佑三は、芋粥を作っていた。滋養を付けるには一番良いと思ったからだ。
食べる気力もないのは分かるが、少しでも食べて欲しかった。
仙千代にとっては、食べることはこの地獄で生きることに繋がる。しかし、それでも食べて生きて欲しい。それが佑三の望みであった。
佑三の作った芋粥を、始めは拒んだ仙千代だが、再度佑三が勧めると、少しずつ口にする。
自分のために作った物を無下にできない、仙千代の優しさでもあったし、それは佑三にも分かった。
仙千代は、椀に軽く注いだ芋粥を、ゆっくりと食べ終えた。「ごちそうさまでした」と頭を下げる。
佑三は、もう少し食べて欲しかったが、とりあえず少しでも食べてくれたことに安堵する。
一番心配だったことは、仙千代が何も食べずにいることだった。食べねば弱る一方だ。そうなれば、それこそ命に係わる。それが、一番心配だったのだ。
食事を済ませた仙千代の、身支度の世話をするが、ぎこちなさを感じる。やはり三郎がいた方は心強いと、佑三は感じる。
許されるだろうか? とは思ったが、直接義政に、三郎を仙千代の側に置いて欲しいと願い出る。
意外なことに、あっさり許された。
「それくらい許してやらねばな、わしは優しさかろうて。あれには、飯はきちんと食わせろ、食わねば力が入らん。わしの伽を務めるには体力がいるんじゃ。そうだろう?」
薄笑いながら言う義政に、嫌悪感で一杯になるが顔には出さない。
そういう事か、三郎の事も優しさからじゃない、己の欲望を満たすための道具としか考えていないこの鬼はと思った。
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