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第14話 2章 凌辱

 事実、仙千代は不安だった。  このようなところに、一人住まわせられるのは恐ろしいことこの上ない。  仙千代を襲った凌辱は、つい先ほどのことだ。仙千代の脳裏には、当然のこと生々しく残っている。    余りの出来事に茫然自失した仙千代へ、意思が戻ってきた。  嫌じゃ! 帰りたい! 大高の城に帰りたい!  仙千代は泣いた。涙が次々と流れる。  声を押し殺して、体を震わせて泣く仙千代。  佑三は仙千代の側による。撫でてやりたい……触れてはいけないか……迷ったが、そっと手を背に触れた。  震える仙千代の背を撫でてやる。仙千代は、拒まなかった。  まだ幼さの残る、華奢な肩。抱きしめてやりたい! 強い衝動に駆られる。  だが、それは出来ない……優しく撫でやるのが、今の佑三に出来る精一杯だった。  ひとしきり泣いた仙千代は、佑三を見上げる。涙に濡れた頬、目は真っ赤になっている。  佑三は、優しく微笑んだ。せめて自分と二人の時は安心させてやりたかった。 「もし、仙千代殿が、三郎さんにここへおって欲しいと思うなら、わしが若君様に何とかお願いしてみましょうか? お許しが出るかはわかりませんが……」  三郎にいて欲しいのは山々だった。物心ついた時から側にいた。長子である仙千代には、兄のような小姓であった。  この時の仙千代は、心身ともに弱り切っていた。その弱った心では、この先のことを深く考えることは無理であったろう。  いや、強い心を持っていたとしても、今日起こったことも、この先起こるであろうことを考えるのは難しいことであった。 「かたじけない……できれば、そのように……」  頭を下げる仙千代に、佑三は請け負ったが、迷いはあった。自分から、言い出したもののそれが、仙千代にとって良きことか……。  確かに、三郎が側にいれば心強いだろう。だが、より辛い思いをすることもあるかもしれない。  三郎が側にいれば、当然仙千代が何のため、ここに居るのか知ることになる。それを、仙千代は受け入れらるのか……。  もしかして、仙千代は今日起こったことが、日常になると思っていないのか……。  それもあり得ると、佑三は思った。衝撃の大きさに、茫然自失状態、それが今の仙千代だ。先のことまで考えられないだろう。  そして、当然三郎の衝撃も相当なものだろう。  主が、蹂躙され玩具にされるのを、ただ傍観するしかできない……それは地獄だろうと思う。  だが、三郎がいることを仙千代が望むなら、三郎には犠牲になってもらわねばと思う。  本質はそこだった。仙千代にとってどちらが良いのか……。  下女が、夕餉を運んできた。  佑三は食べるように勧めるが、仙千代は拒んだ。食べる気力もないようだ。  佑三も、今は寝かせてやりたいと思った。食も大切だが、今は休息だろうと思った。褥に横たわった仙千代へ優しく言う。 「眠って体を休ませるがよかろう。目覚めて腹がすいたら、食べるがよい。食事は、そこに置いておくので……」  仙千代は目を閉じた。  きれいだ……と、佑三は思う。あれだけ蹂躙されてもその美しさは失っていない。ただ、青ざめてはいた。それが哀れだった。  しばらくそのまま見ていたが、仙千代は目を開かない。眠っているのかどうかは分からなかったが、佑三は静かに部屋を出た。

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