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第17話 3章 地獄の日々

 仙千代自身、最後の本音こそ、ここで生きるよすがではあった。  正直な気持ち死にたいと思った。しかし、己が死ねば高階家はどうなる? それを考えると、死ぬことはできなった。何があっても生きねばならなかった。  生きることが己の責務なら、全てを受け入れるしかない。例えそれが地獄の苦しみでも……。  義政の言動から察するに、元服するまで数年の辛抱か……そう判断していた。数年辛抱して、家を守れるならせねばならない。それが、高階の家を継ぐわしの責務。そう考えていた。  この日仙千代へ抱いた感動に、佑三の仙千代を庇おう、守ろうとする気持ちはより強まり、実際に行動にも表れた。  佑三の仙千代に対する行動は、全くの滅私で、時に自分を犠牲にして庇うことも少なくなかった。  ために、三郎も徐々に佑三を頼りとするようになった。佑三がいなければ、この環境はより悲惨なものになっただろう事は、三郎にも分かった。  佑三と三郎には、仙千代を守るための連帯感みたいなものが生まれていた。  三人の中にある、連帯感、結束力のようなものを敏感に感じ、快く思わない者がいた。作之助である。  作之助は、己の身分が低いことは分かっていた。それがゆえに、佑三や仙千代に辛く当たることで、劣等感を解消させる、ゆがんだ心持の人間だった。  もとはそれなりの身分の佑三、仙千代は大名の子息。その二人が凌辱されることは、作之助にとっては至福の事だった。  そのための準備も嬉々として行った。虎の威を借りる狐のごとく、三人に対しては不遜にふるまった。  それでいて、義政は勿論、その側仕えの者達には、徹底的にへつらった。  そのかいあって、今やこの離れ屋の全てを取り仕切るまでになっていた。つまり、三人は勿論のこと、この離れ屋の使用人たちで彼の意に逆らえるものはいなかった。それが、作之助を益々不遜にした。  その作之助にとっては、三人から何やら、仲の良さを感じるのは面白くなかったのだ。  自分を蔑ろにして、目に物言わせてやると思った。  作之助は義政に、仙千代と佑三の仲が、怪しくないかと仄めかした。  仄めかすことで、義政が二人に仕置きするだろうと考えての事だ。   「ゆう、お前は己の立場は分かっているのか?」  義政の突然なされた下問に、佑三はその意図をつかみかねた。 「お前は、最近でこそ伽をさせておらんがわしのもの、わしの玩具ぞ。むろん仙千代もだ。まさかお前あれに、手を出しておらんだろうの?」  あまりと言えばあまりな言いがかりに、強く否定した。 「そのような、滅相もない事でございます。仙千代殿の世話はしておりますが、それだけでございます」 「まあな、あれの世話はわしが命じたことゆえな。お前もあれも、同じわしの玩具、それは分かっているのか?」  玩具と言い切るところが、義政の不遜。全く、人として思っていない、物の扱いだ。しかし、今の佑三には肯定するしかすべはない。 「勿論でございます。十分に分かっております」 「そうか、ならば良いがの……あれを呼べ、伽をさせる」

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