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第41話 6章 過去の悪夢

 城に戻った当初は、弱々しい所もあったが、最近は随分と逞しさも見せていた。故に、もう大丈夫だろうと思っての、今回の打診だった。  何故、正室を娶るのを拒む? 成定は、お万の方に、母として何か心当たりがないかと、質した。  実は、お万の方は仙千代が全く女を相手にしていないことを、知っていた。手当たり次第も困るが、ある程度の女の経験がないことにはと、心配していたのだった。武門の嫡男として、子を成すことも、大事な務めであったからだ。 「正室を娶らぬと、ですか……実は」  夫に、己の心配を打ち明ける。 「もしかしたら、仙千代は潔癖な性格ゆえ、正室を娶るまではと、自制しているのではとも思っておりましたが……」  それが、正室自体を拒むとは……思いの外だった。  それは、成定も同じであった。思案に暮れた二人は、三郎と、きくを召して質すことにした。   「そなたらになんぞ心当たりがないかと思ってな。仙千代のことは、そなたらが一番よう知っておろうと思ってな。どうじゃ?」  聞かれた、三郎と、きくは恐れに身を固くする。まさに二人にとって、恐れた時がやって来たのだ。 「高階の嫡男として、子を成すことも大事な務めじゃ。それは、そなたらも分かるじゃろ。なぜあれは、正室を拒み、女を近づけぬのじゃ? なんぞ、心当たりがあるか?」  黙って、ただひたすら身を固くする二人に焦れて成定は、通告する。 「お万、仙千代の世話からきくを外せ! そして、側室に相応しい若いおなごを側に付かせろ! 擦れば、あれもその気になるやもしれん」 「殿! それは、どうかお許しください!」 「なぜじゃ!」 「若の、若様の望みであります」 「だから、何故じゃ! なぜ仙千代がそれを望むのじゃ!」  三郎は、意を決した。このままでは、きくの代わりに、若いおなごが仙千代の世話係になる。それは、仙千代を、苦しめるだけだ。  三郎とて、仙千代が子を成さなければ、高階が続かないことは分かる。己にとって大事な主家が、途切れることは望まない。しかし、今は仙千代の心の方が大事だった。半年で漸く、ここまで回復してきたのだ。それをまた苦しめたくなかった。  多分、時が解決してくれるだろうと三郎は思っていた。楽観的過ぎるかもしれないが、今はそう思うしかなかった。

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