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第42話 6章 過去の悪夢

「若は、若様は他人に肌を見せることを拒まれます」 「なんじゃと? きくは、きくはどうなんじゃ?」 「きくさんだけなのです、大丈夫なのは……申し訳ございません! 全ては側付きの私の落ち度! 腹を切ってお詫び致しまする! ですから、どうか、どうか若様の望み通りに!」 「謝罪は後じゃ! どうしてそうなったかを説明いたせ!」  三郎は、仙千代が義政に凌辱されてきたことを、話した。それ故に、男は勿論、女の体も拒むのだと話した。  そして、今も時折夜半、うなされることも話した。小姓を不寝番にすることも、女に伽をさせることも難しいと……。  聞かされた、成定とお万の方は、暫し茫然自失で言葉も無かった。理不尽、これほどの理不尽な話があろうかと思う。  泣き出すお万の方の横で、成定は己も泣きたくなる気持ちだった。四年前の我が決断が、そのような事態を招いていたとは、今の今まで思ってもいなかった。  確かに、義政の小姓を務めていたと思っていた仙千代が、無役だったこと。仙千代に、義政に対して一片の思慕もない事など、不審に思うことはあった。しかし、まさかこれほどの事とは……。  義政に、松川家に激しい怒りが沸く。成り上がりの戦国大名ならともかく、れっきとした守護大名が、かほど人倫に劣る振る舞いをするとは! まさに、義定の討死は天罰とも思った。 「殿! どうか若様を守れなかった私に切腹お命じください!」 「そなたか腹を切ってどうなる! どうなるものでもなかろう! その状況で、そなたとてどうすることもできんじゃったろうとは、わしにも分かる。松川の本性見切れなかったわしにも責はある」  あの巨大なる、松川の城で、何が起ころうと抗うことは不可能だ。それくらいは成定にも分かる。  だから、なおさら仙千代が哀れだった。どんなに辛くても、耐えることしかできなかったのだろう。まだ元服前の子供が……。  怖い思いもしたから、未だにうなされることも容易に理解できた。  成定は、心から悔いていた。大事な嫡男。しかもたった一人の子。それを……なぜあの時、人質に出したのじゃ……深い後悔。そして大いなる怒り。義政の首を切り落としたい気持ちになる。 「三郎、済んだことを悔いても仕方ない。問題はこれからじゃ」  成定は、気持ちを落ち着かせるよう、静かに話し始めた。 「これからも仙千代の側にいてやれ。あれの思いを汲み取ってやれるのはそなたしかおらんだろう。あれを守るのがそなたの務めじゃ、分かったな」  三郎は、土下座したままその言葉を聞き、胸に刻みこんだ。生涯かけて、若のことはお守りすると心に誓った。 「きく、そなたも知っておったのか?」 「はい、三郎殿から聞きました。故に、若様のお世話は私がと思いお仕えしてまいりました」 「そうか、大儀じゃな。これからもよろしゅうな」  そして成定は、自分にも言い聞かせるように話す。 「仙千代の気持ちも、このままというわけでもなかろう。いずれは落ち着いてくるだろう。今は時が解決することを願うばかりじゃな」  まだ帰還して半年。十六になったばかり、焦ることはないと、この時、その場にいた四人は思った。

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