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第45話 7章 大高城主

「ところで、松川の動きはどうじゃ? 相変わらずきな臭いのではないか」 「そうでございます。全く油断はできない状況かと。砦の守りは固くしておかねばと考えます」 「そうじゃの。父上もご承知とは思うが、わしが見回りに行ってこよう」  成利の行動は常に早い。早速砦を見回り、若殿自ら激励の言葉を掛けると、砦を守る武将は、自ずと鼓舞される。こういう時の成利は、若殿としての気概に満ちていた。三郎は、頼もし気持ちで、成利を見つめた。  三郎だけでなく、家臣の誰しもが、高階家の次代に頼もしさを感じていた。それ故になおさら、成利の独り身が憂慮された。 「父上、ただ今帰りました」 「おお、砦に行っておったのか、苦労じゃったな。で、様子はどうじゃった?」 「はっ、今のところ動きはないようでしたが、気を緩めることなきよう指図してきました」  松川家は、義定の討死後、義政が跡を継いだが、安定に欠けた。義政に太守の力量がないのは、明かだった。  そんな松川家に、隣国竹原家の手が伸びるのは必然だった。竹原家は、義政の正室の実家で、現当主はその兄だった。  若い義弟を助ける、と言う名目で何かと松川家に介入した。義政にしても、竹原の力を頼りにせねば、何事も進まないというありさまだった。今の松川家は、ほとんど竹川家の傀儡といえた。 「松川の動きはうっとうしいばかりじゃな。まったく、竹原の力を借りた、まさに虎の威を借りる狐じゃからな今の松川は」 「それもありますが、竹原自身が、松川を意のままにできて、西への野心を持ったと言えましょう。駿河の次は、必然こちらですから」 「竹原の意向に沿った動きと言うことじゃな。傀儡にされて情けないことよの。亡き義定公も草葉の陰で泣いておろうのう」  乱世の世は、食うか食われるかだった。婚姻を結んで、それが助けになることも在るが、付け込まれることも在る。今の松川の状態は、まさに付け込まれているわけだが、当主の義政にその自覚はなかった。むしろ、竹原のおかげで、地位を保っていると感謝しているくらいだった。  成定の指摘通り、義定もこれでは浮かばれない状態になっていた。  その後も成利は、きな臭い松川の動きへ、警戒を緩めず、度々自ら砦を巡回した。  この日も、三郎を伴い砦を巡回している時だった。城から早馬が来た。 「城から早馬じゃと!」  成利は、急使に緊迫した面持ちで目を通す。 「三郎! すぐに城へ戻る! 父上が倒れられた!」  成利から渡された書状を読み、三郎も事態の切迫を理解した。直ちに砦を出た一行は、成利を先頭に、城へと急いだ。

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