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第59話 9章 久世長澄

 四国攻めにある久世長澄は、己の片腕とも言える重臣結城晴康に、兵の半数以上を託し、四国を離れることにした。残す兵が、一万五千。己が連れて行くのが、五千。四国にこれだけ残せば、差し支えないとの考えだ。  彼は、先ず城に兵を残した後、朝頼の許しを得るべく、朝頼の許へ赴く。朝頼は、昨年嫡男に岐阜の城を譲り、今は安土の地に巨大な城を建てつつあったが、完成途上で、今は仮御殿住まいだった。 「久世? 久世が何しに来たんじゃ! あれは四国におるんじゃないのか」 「はい、そうなのですが、それが何やら上様に火急にお願いしたい儀があると申されております」 「火急にな……なんぞあったのか……よい、通せ!」 「長澄! なんじゃ、何しに来た! なんぞあったのか!」 「はっ! 大高城の救援の件で、急ぎまいりました。なにとぞ、大高城への救援それがしにお任せいただきたく、お願いしたく存じます」 「大高城……ああ、あそこか……美濃の国境故に、朝行に任せてあるぞ。それより、そなた四国はどうなんじゃ? こんな所におって大丈夫なんか」 「はい、今はにらみ合いでございまして、おもてだって動きはありませぬ。故に、それがしが離れても問題ないと判断しております。それよりも、大高城の救援が今は大事かと考えます」 「はあーっ、大高城などそなたがわざわざ救援に行く城かっ! 朝行に任せておけばよい!」 「お言葉を返すようでございますが、それこそ朝行様をわざわざ煩わせる城ではないかと。なにとぞそれがしにお任せください。ひらにお願い申し上げます」  言葉を返すどころではない。まさにああ言えばこう言うだった。久世は、津田朝頼の怒りを覚悟した。怒りの爆発が起きても不思議ではない状況。  朝頼は、電光石火、独断専行な振る舞いで誤解されているが、意外と部下の意見に耳を傾けるところがあった。部下の諌言には素直に従うところがあったのだ。  それは、朝頼の長所と言える。その柔軟性ゆえにこの短期間で天下を目指すところまできたと言えるのかもしれない。  久世も、何度か意見を具申したことがあり、それは聞き入れられてきた。  が、これは違うと、久世自身も分かっていた。  この願いに、理屈の通らないことは、久世自身百も承知してここにいる。  普通なら、このようなわがままとも言える願いを口にするなら、怒りをかい手打ちにされても当然と言える。  しかし、久世には勝算があった。ずるいとは言えたが、今この情勢で、己を切り捨てることはない。と言う確固たる確信がある。  津田は、四国、中国攻めの最中だ。それを年内には片付けて、いよいよ年が明けたら東へと攻勢をかける。西への憂いが無くなれば、東への攻勢も早々に片付く。  そうなれば、天下統一はなったも同然。  そのためにも、四国平定は必ず年内に成し遂げるは必定。  その四国平定は、己しか成しえないという自信。津田の天下統一に己の存在は絶対に外せない、確固たる自信が久世長澄にはあった。

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