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第63話 10章 再会

 成利と三郎の主従二人が、陣に近づくと、陣の前に立派な甲冑姿の武将の姿が見えた。何かを探しているようだ。  そして、その武将は成利たちの姿を認めると、こちらに走りよって来た。 「仙! 仙殿ではないか!」  自分を幼名で呼ぶ武将。その声に聞き覚えがあった。驚いて成利は、目を凝らしてその武将を見る。  佑三だった! 十三年前に別れて以来、一度も会うことが叶わなかった人。  会いたかった! どうして訪ねて来てくれないのか、と恨めしくも思った人だった。 「佑――佑さん!」 「そうじゃ! 佑三じゃ! 覚えておったか」  当たり前だ! 一度とて忘れたことはない。  呆然と佇む成利の肩に手をやりながら、佑三は言う。 「さあ、ひとまず中にお入りなされ」  そこで、成利は、はっとするように我に返った。  佑三の身なりは、ものすごく立派なものだ。かなりの身分にあると見て取れる。  彼は、久世様の重臣なのだろうか。 「あっ、あの佑さんは今、久世様の配下におられるのか?」 「久世はわしじゃよ」 「……」  きょとんとする成利に、佑三はもう一度言った。 「久世は、わしなんじゃ。わしは今、久世長澄を名乗っておる」  えっ! はっ! ど、どういうことじゃ! 佑さんが久世様! 余りに想定外の事過ぎて、成利の理解が追い付かない。  それは、後ろに控えている三郎も同じで、只々、呆然としている。  佑三、久世長澄は、そんな成利を微笑んで見つめる。  しばらくして成利は、ようやく我に返った。我に返るなりはっとして、がばっと、その場で跪いた。 「知らぬこととはいえ、大変なご無礼をいたしました。心からお詫び申し上げます。どうか、ご容赦のほどよろしくお願い申し上げます」  そんな成利を、久世は自ら抱き起す。 「そのようなことしなくてよい。むしろ水臭いことを言わぬでよい。昔のように佑さんと親しんでくれ」  そう言われても、昔とはあまりに立場が違う。久世長澄と言えば、津田家の中でも、重臣中の重臣。今や津田朝頼の片腕とも目されている武将だ。   例え、成利が大高城主のままでも、はるかに及ばない。まともに語り合えるような立場ではない。まして今の成利は、城を追われた、言わば浪人の身である。  立ち上がったものの、遠慮を全身に表す成利に、久世は彼の心の内を理解するが、持ち前の押しの強さを発揮する。  成利の手を引いて、本陣の陣幕の中へ入れ、床几に座らせる。 「仙殿、先ずは話を聞こうではないか」  その言葉で、成利は援軍が必要無くなった経緯を説明せねばならぬと、思い至る。これは、城主として援軍を願い出た己の務めだ。  成利は、順を追って論じる。論じながら、羽島や松川に対する怒り、己の情けなさがよみがえる。 「津田様に援軍を願い、それに応えて、こうして来て下さいました。それなのに、このような不甲斐ないことで、お恥ずかしいばかりでございます」 「いやいや、我の方こそ、もう少し早ければのう。間に合わなんだ事、お詫び申し上げる。すまなんだ」  頭を下げる久世に、成利は恐縮する。 「そのような! どうか頭をお上げください。かえって、我が身の情けなさが辛うございます」   

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