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第64話 10章 再会

 久世は、援軍が間に合わなかったことに、歯噛みした。  そして、その原因になった松川への怒りに燃える。羽島の謀反は、松川の手引きなのは明らかだ。許し難いと思う。  何よりも許せないのは、松川が成利を、駿河に呼ぼうとしたこと。十三年過ぎたいまだに、成利となった仙千代を弄ぼうとするのか!  鬼畜は鬼畜のままじゃ! 変わってはおらぬなあ、義政! よいっ! あやつの命も来年まで。我が必ずやあやつの首落としてやるぞ! 体中に怒りが満ちる。  どうしたらいい……久世は考える。  援軍が間に合えば、松川なぞ蹴散らかし、その後はいくらかの兵を残して、四国に戻るつもりであった。  しかし、その前提が崩れた。  五千の兵があれば、大高城を攻めるのは簡単である。しかし、籠城されたら時間がかかるだろう。成利の話からして、元々が籠城準備をしていたのだ。ある程度は持ちこたえるだろう。そうなると、厄介だなあと、久世は思う。  さすがに、このまま長く四国を空けるわけにはいかない。  仙殿には気の毒じゃが、大高城は、四国を平定してからだな。いずれにせよ、来年は東へ侵攻する。その時、大高城も取り戻し、松川や竹原は一網打尽にしてやる。  久世は、決断した。 「仙殿、まこと申し訳ないことじゃが、わしは四国に戻らねばならぬ。今すぐに、大高城を取り戻してはやれぬのじゃ。承知くださるか」 「そのようなこと、久世様が謝ることじゃございませぬ。そもそもが、我の不徳の致すところが招いたこと」 「じゃが、四国を平定すれば、来年は東へ侵攻する。その時は必ず、大高城を取り戻すと約束する。勿論、松川、そして竹原もまとめて滅ぼしてやる」  久世の力強い言葉に、成利は安堵を覚える。  昔から久世、いや佑三の言葉には、力付けられたが、いまは尚更だった。  久世は、成利の顔に、了承を感じ取った。 「では、今日はもう遅いゆえ、休もうか。陣中ゆえゆっくりとは眠れぬじゃろうがな」 「そのような事、当然にございます。元々野宿のつもりでおりました。今宵、休ませていただければ十分にございます。明日は早朝に失礼させていただきます」 「うん?……明日どこに行かれるのじゃ?」 「城を落ちた身ゆえ、特別行く当てはございませんが、どこか寺にでも身を寄せようかと思っております」 「だったら我が城に来られるがよい」 「しかし、それは……」 「今回の件は、上様にも報告せねばならぬ。今後のこともある。しからば仙殿は、わしの城におるがよかろう」  今後の動静は、朝頼の意向で決まることは確かなことだ。自分が大高城主へ返り咲けるほど甘い世界ではないが、今仏門に入るのも早急だとは、成利も思った。  しかし、このまま久世を頼ってよいのだろうか。  久世は、成利の戸惑いを遠慮とみた。やはりここでも、押しの強さを発揮する。  決断の速さと、押しの強さは彼の真骨頂。それを武器に、ここまで上がってきた。 「遠慮はいらぬ。まだ全て完成した訳ではないが、わしの城も見てもらいたい。来てはくださらんか」  成利も、ここは久世に頼る以外ないだろうと思った。戸惑いはあったが、ありがたく受けることにした。 「それでは、お言葉に甘えて世話になります。よろしゅうお願い申し上げます」

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