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第65話 10章 再会

「ここがわしの城じゃ。まだ全て完成したわけじゃないが、概ね出来ておるのじゃ。さあ、お入り下され」  久世は、成利の背に手をやり中へ導く。満面の笑みで嬉しさが、全身に現れていた。  そして久世は、成利を城の中枢、天守に案内する。そこは、眼下に美しい湖が広がっていた。その絶景に成利は感嘆する。 「素晴らしい眺めでございますな」 「そうじゃろ。この眺めは絶景じゃ」 「これは海ですか?」 「湖なんじゃ。仙殿は初めて見るのか?」 「はい。私は、海も、湖も見たことはなく、区別がつきません」 「海には波があるが、湖にはない。その分湖の方が穏やかだ。そして水がな、海は塩からいが、湖は普通に水じゃ。わしは、湖の方が好きじゃな」 「そうなのですね。水面が穏やかで、何やらきらきらと光って綺麗ですな」  うっとりした表情で言う仙殿こそ、綺麗だと久世は思う。  十三年ぶりに会った仙千代は、昔のまま綺麗な人だ。月代姿は凛々しさを増していた。その事実に久世は感動していた。  この人を守りたい一心で、ここまできた。この城を持ったのもそのため。同じ城主の立場で、ここへ招きたいと思った。  それが、今この人は、自分の城を失くして、ここに居る。誰かの庇護がいるのは必然だ。ならば、その庇護者は自分だ。この人を守るのは、己しかいないと思う。  久世は、北の丸に成利を案内した。ここは成利を招いた時のために造った御殿。その機会が己の想定外に早く訪れたことに、気持ちが浮き立った。しかし、城を落ちた成利の気持ちを考えると、自重せねばと思い至る。 「ここで、ゆっくりくつろいでくだされ」  成利は、その豪華さに驚く。自分は客人ではない。城を落ちて情けを受ける身。いわば居候の身だ。 「客人でもない私が、このような立派な御殿に恐縮でございます」 「何を言うのじゃ。そなたはわしの大事な客人じゃ! 遠慮なくここを使って欲しい。そうじゃ、先ずは湯を使うと良かろう。その後夕餉は本丸御殿でわしと一緒にとろう」  そう言って、配下に湯殿の準備を命じている久世に、成利も戸惑いながらも従うことにする。  成利は、真新しいの木の香りがする立派な湯殿に驚きつつ、世話をしようと控えている小姓に困惑する。それを察した三郎が、ここは自分がするからと、小姓には下がってもらう。 「殿、お一人で大丈夫でございますか」 「ああ、大丈夫じゃ」  髪は洗えないが、体は自分一人で何とか出来る。居候の身で、世話役に老女を、など言い出せるものじゃない。  何とか洗い終えて、さっぱりした気持ちで湯殿から出ると、用意された下着と小袖に再び驚く。見るからに上質な物だったからだ。これほど豪華な着物を身に付けたことはない。  しかし、ここで遠慮しても、身一つで城を落ちた己は、何も持たぬ身。他の物をと要求することも、かえって失礼だ。恐縮しつつ着ることにする。 「殿、ようお似合いでございます」 「そうか、このような上等な物、気後れするな」  成利は、ひたすらに恐縮しているようだが、三郎は久世の配慮が、ありがたく嬉しいと思う。  佑三が、久世だと言う事実には心底驚いたが、久世は間違いなく佑三だと思った。十三年の空白はあるが、頼りになる佑三のままだと思うのだ。  湯殿の世話にと遣わした小姓を、三郎が退けた件は、すぐに久世に伝わった。 「三郎さんが一人でしたと」 「それが、中には入らず控えておられたようです。世話役は、女子の方が良かったのでしょうか?」 「三郎さんを呼べ」

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