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第66話 10章 再会

「率直に聞くが、湯殿の世話は女子の方が良いのか?」 「それは……」  言いにくそうな三郎に、人払いが必要なことを察した久世は、小姓たちを下がらせた。 「大高城では、どうしておったのじゃ」 「長らく主の乳母がしておりました。乳母が亡くなってからは老女がしておりました」 「つまりは、小姓や、若い女はだめということか」 「はい、さようでございます」 「それは、駿河でのことが原因なのか」 「はい……そう思われます」  短いやり取りだが、久世には分かった。三郎も久世になら分かるだろうと思った。  あの地獄を共に生きた三人。あの環境でどれだけ成利が心に傷を負ったのか、理解できるのは、三郎と久世しかいない。  三郎は、主の傷を癒してやりたく、孤軍奮闘してきた。それを、これからは久世も背負ってくれるかもしれない。いや、久世なら背負ってくれるだろうと思えた。  駿河でも、佑三は頼りになる存在だった。佑三がいなければ、より悲惨だったと思う。  その佑三が、久世となって現れた。立場は大きく変わったが、成利に対する気持ちは変わらずあると、三郎には思えた。再会して三日もないが、それは十分に感じられた。  立場が変わり、今の久世だからこそ、より頼りになるのではと、三郎は期待した。  三郎の期待通り、久世は直ちに、成利の世話係の老女を数人手配した。  大高城では、二人の老女が付いていただけなので、益々成利を恐縮させた。 「殿、久世様が夕餉をご一緒にと仰せにございます」  成利は、久世の小姓の先導で本丸御殿へ行くと、既に久世が待っていた。 「おおっ、ようお似合いになりますな」  満面の笑みで言う久世に、成利は頬を染める。その恥じらいを帯びた様子は、なんとも可愛く久世はどきっとさせられる。 「このような、上質な着物、私にはもったいなく、恐縮でございます」 「何を言う。仙殿にこそと思ったのだが、まさにその通りじゃった。よう似合っている」 「かたじけのうございます」  そう言った成利の頬は、ほんのり色味を増したようで、更に久世の心臓を、容赦なく刺激する。  そこへ、夕餉の食膳が運ばれてきた。久世は、急な事ゆえ、大したもてなしは出来ぬがと言うが、成利には素晴らしく豪華な物だ。 「簡単な物ですまぬが、食べてくだされ。口に合うといいが」 「なんの、これはまた豪華で、私にはもったいのうございます」 「仙殿は相変わらず奥ゆかしいのう。まあ、それが仙殿の良きところであるが。さあ、遠慮せず食べてくれ」  久世は、勧め上手だった。膳に並んでいる物を、「これは美味いな。仙殿も食べてみなされ」と言いながら、次々と勧めるのだ。  すすめられるまま、成利はいつも以上に食べた。常から、食の細い成利には珍しいほどの量で、当の本人も驚く。 「もうお腹一杯でございます、おいしゅうございました」  最後に運ばれてきた、茶と干菓子を食べ終えた成利が言うと、久世は満足そうに頷く。  元々細い体ではあったが、再会した成利は、綺麗だがやつれがあった。城を落ちたのだから、当然とは思うが、心が傷む。ここで、沢山食べさせて、やつれを取ってやりたいと思うので、満腹状態の成利に安堵したのだ。

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