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第82話 13章 松川滅亡
総大将の津田朝行を中心に、松川の城への一斉攻撃の前に軍議が開かれた。
「我が軍で城は完全に取り囲んだ。今からでも総攻撃は可能であるが、既に日没が近い。明日朝からの攻撃が良いと思うが」
朝行が同意を求めるように、久世を見る。
「私も同意です。暗くては相打ちの恐れもある。夜明けを待っての攻撃がよろしいでしょう」
副大将の久世が同意したことによって、翌早朝の一斉攻撃が決まる。続いて、各々の持ち場も決まっていく。
本丸、二の丸などの主要な場所は、朝行配下の若き武将達が受け持つことに決まった。久世が、血気に逸る若い武将達へ譲ったためだ。
だが、久世には目論見があり、敢えて主軸を離れた場所を受け持った。取りこぼしが無いようにと言って。
「よしっ! これで配陣は決まったな! それでは各々方明日の攻撃に備えて抜かりなく準備せよ! 明日の活躍期待するぞ!」
総大将の力強い檄で軍議は解散した。
「殿、我らの持ち場は?」
陣中に戻った久世へ、結城が声を掛ける。戻りを待ちわびていたのだ。久世の配下も、血の気の多さでは、朝行の配下に負けてはいない。
「我が軍は、城の庭園あたりの場所に決まった」
「えっ!」
結城は、不満気な顔になる。本丸はあちらに譲っても、二の丸は受け持ちたかった。でないと、主要な人物の首は取れない。そもそも庭園あたりに誰がいるのか。
「わしに目論見がある。まあ、聞け」
久世は、結城をはじめとした侍大将級の武将達に、城の図面を見せながら、明日の作戦を語る。
「この庭の奥に義政の離れ屋がある。わしは、ここに義政が隠れていると思えてならんのじゃ。無論、確証はない。わしの感じゃ」
わしの感――戦場での久世の感は鋭い。動物的感と言ってもよい。配下の武将たちは皆それを知っていた。うちの殿の感は鋭いと。皆、自分たちが義政の首を取れることを確信した。
「それでよいか、義政を見つけたら、首を取らず生け捕りにしろ。生け捕った者には、首を取ったと同じ功績を与える。必ず生け捕りにするのだ」
並みの城主なら、落城が迫ったら、敵に首取られるより切腹を選ぶ。しかし久世は、義政は切腹する時機を失すると思えてならないのだった。これも感ではあったが。
切腹して果てているなら、それでいい。しかし、生け捕ったら……久世の心中には期する思いがあった。
翌早朝、夜明けを待って津田の三万を超える大軍が、松川の居城を取り囲んだ。各々自分の持ち場に付き、その時を待った。
総大将の朝行が、配陣を確認すると、力強く采配を振った。それを合図に、勢いよく城へと突入していく。
久世の部隊は、城の正面とは外れた横合いから突入した。そして、庭園を突き進んでいくと、奥深くに建物が見えてきた。あれが、離れ屋だろうか?
「殿! あそこに見えますのが離れ屋でしょうか?」
「そうじゃ! 間違いない。取り囲め!」
十四年前脱出した離れ屋、幾分古くはなっていたが、あの時と同じを姿をしてそれはあった。
久世の部隊は離れ屋をみっしりと取り囲んだ。それを確認した久世の合図で、兵たちは一斉に中へ入って行く。
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