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第87話 最終章 花綻びて

 佑三は、丁子油の力も借りて、仙千代の蕾を指で丹念に解していく。初めは固く閉じられたそこが、段々と柔らかくなっていく。  それは、仙千代には甘い陶酔だった。駿河では、無理矢理開かされた。それは、仙千代に苦痛しか与えなかったが。けだものは、自分の快楽ばかりを追っていたからだ。しかし、今は違う。佑三は、仙千代に快楽を与えたい。それを優先したいと思っている。それは仙千代にも伝わっている。  早く佑三のもので満たされたいと仙千代は思う。 「ああっ……あんっ、いやっ……あんっ、もっと……」 「ふっ……全くそなたは、嫌なのか、もっとなのかどっちじゃ。嫌なのか、うん……」  佑三は、苦笑交じりに、仙千代の耳元に甘く囁く。仙千代は、顔を横に振る。 「もっとなのか? どうして欲しい? うん……」 「あっ、もっと……と、殿の……」 「わしが欲しいのか」  頷く仙千代。佑三は、自身の昂りを仙千代の蕾にあてる。そこは、ほんのり桃色に色づいて己のものを待っているように思える。  仙千代の蕾は開いて佑三のものを受け入れていく。花の蕾が膨らみ花開くように。 「ああ、そなたの中は熱いなあ……なんと心地良いのじゃ……仙も気持ち良いか」  仙千代は気持ち良さに陶然となりながら頷く。 「ああっ熱い……と、殿……」  二人はお互いに一体になったことを、体の中心で感じた。そして、その幸福感に浸った。それは、十四年かけて、漸く訪れた思いの成就であった。 「そなたはわしの者じゃ。もう決して離さぬ。仙、動いて良いか」  佑三は抽送を開始した。それは激しいが思いやりのこもったもので、仙千代を陶酔に導いていく。 「ああっ……あん……ああーっ」  仙千代の喘ぎが、甘さを増していく。佑三の逞しい抽送は続く。もう往きたい、陶酔の極みに、そう思った時に、佑三の精が自分の中に迸ってきた。それを体の中心で感じると、浮遊感に包まれ、仙千代は自失した。  仙千代が意識を取り戻したのは、佑三の腕の中だった。仙千代は、はっとする。夜着は着ている……がばっと起き上がった。 「どうした、まだ夜は明けておらぬぞ」 「あっ、あの私のこれは……」 「わしが着せてやったぞ」 「も、申し訳ございません……と、殿にそのようなこと……」 「気にすることはない。そなたのことはわしに任せておけばよい」 「しかし、それでは、余りにも……」申し訳ないと仙千代は、思うのだ。 「湯殿の世話は老女にさせても、このような事、わし以外にさせられんぞ」  それは確かにそうで、駿河の時も佑三にしか任せられなかった。しかし、今の佑三は、あの頃とは立場が違い過ぎる。とても、このような後始末をさせられる身分ではないのだ。城主なのだから。むしろ自分がするべきなのだ。 「わ、私が自分で……」 「それはならぬ。無理にしてそなたの大事なところを傷つけてはいかんからな。心配いらぬ、全てわしに任せておけばよい」  納得いかな気な仙千代を、宥めるように佑三は言う。それは優しいながらも、断固とした口調でもあって、仙千代はそれ以上反駁できない。すると、佑三が仙千代を、抱き寄せ、その全身を包み込むようにして抱きしめる。  温かい、佑三の温もり、愛する人の温もりに、仙千代は心からの安堵を覚える。今は、この温もりに包まれていたいと思った。 「今宵からは、わしが北の丸に渡って行く。よいな」  仙千代は、佑三の胸に顔を埋めたまま、その背を強く抱きしめた。  佑三が寝所を出ると、力丸と三郎が控えていた。佑三は、三郎を手で招き、今宵からは自分が北の丸に行くと伝える。  三郎は、安堵すると共に嬉しさがこみ上げる。  通常、相手が男女にかかわらず、城主が、自分の寝所へ呼びつける場合は一時の慰み。しかし、城主が出向くなら、正式な立場とみなされる。女の場合なら、正式な側室、男の場合は寵童となる。  つまり、佑三が北の丸に来ると言うことは、仙千代の立場は、正式なものになる。仙千代の場合元服しているので、寵童とは言えないが、城主の思い人、側室と同等の立場とみなされる。  三郎は、昨夜仙千代が佑三のもとで過ごすと知った時、二人の思いの成就に嬉しい気持ちと、今後の仙千代の立場を思った。殿は、どうされるのかと。しかし、何も心配することはなかった。佑三は最高の誠意を示してくれた、それが心から嬉しかった。  北の丸に戻った仙千代は、心地良い気怠さに、何もせず、ただ佇んでいた。夢のような一夜だった。駿河であそこまで汚れた自分を、佑三は受け入れてくれた。  佑三への思いは駿河時代からあった。無論口に出すことはない、淡い思いではあった。別れていた十三年幾度も佑三を思った。あの手を放すべきではなかったと、後悔もした。  しかし、再会してからの佑三の立場は、駿河時代とは、それこそ天と地ほどに違っていた。到底自分などつり合いが取れないと思っていた。ましてや、佑三には未だ世継ぎがいない。子を成せぬ自分などの出る幕はないと思っていた。  それなのに、佑三は己の者だと言って、その精を注ぎ込んでくれた。嬉しかった。それだけでいい、これから生きていけると思った。  佑三は、今宵からここへ渡ってくる言った。その気持ちは嬉しい。けれどそれを受け入れていいのか。いけないだろう。このまま佑三を受け入れれば、自分は、佑三に依存して、一人になった時生きてはいけなくなる。それがたまらなく怖い。  これだけ大きくなった久世家に正室が必要なのは明らか。世継ぎのために側室もいる。自分のいる場所はない。あの温かさに慣れてしまう前に、去らなければなるまい。この体の心地よさにも慣れてはいけない。慣れる前に去らなけば……。  昨夜のことは、良き夢を見させていただいたと……それを生きるよすがに仏門へ入ろう。

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