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第7話
十年前の事件は再度、徹底的に調べ上げられた。その結果、陰謀の証拠や賄賂の証言などが大量に挙げられた。
メアリルが突発的な発情期を迎えたのはエレノアが作らせたマフィンに発情促進剤が混ぜられてており、同じものを食べたラインハルトにも影響が出たとのことであった。
そして、メアリルにかけられていた疑いは全て晴らされた。ラインハルトを突き飛ばしたことも、自分の身を守る為にはオメガとして当たり前の行動であり、むしろラインハルトに強姦という罪を犯させないために取った行動として不問に付す、ということになった。
そして、エレノアはメアリルが十年間いた神殿へと送られることとなり、エレノアの一族は今後五十年間、宮廷の要職には着くことができなくなった。
エレノアの話を聞いたメアリルは顔色を悪くした。
「でもあの神殿は……、腐敗していて……」
「不正に関わっていた神官どもは放逐した。人事は一新されている」
え、とメアリルはラインハルトを見上げる。
「俺が国王になったのはお前を取り戻すためだ。それをするにはこの国に蔓延る不正、腐敗を取り去ることだと考えた」
婚姻の儀の際の、真っ白な立襟の衣装を着用したラインハルトは真っ直ぐにメアリルへと視線を合わせた。
「それが俺の国王としての役目だ。お前が気づかせてくれたのだ。ありがとう」
そして慈しむように、白狼耳に触れられる。
人には何か役目があり、それを果たすため生まれてきた。
初めて会った時、メアリルがラインハルトに語ったことだ。メアリルでも忘れていたことをラインハルトは覚えてくれていた。
「……嬉しい、ラインハルト様」
今、メアリルは赤月夜の際に白狼一族が身につける真っ白な聖衣を身に纏っている。所々に赤色の線や刺繍が施され、メアリルの乳白色の髪色や、赤い目の色と合っていた。
メアリルの頭の上には、朱天蘭が模された花冠が飾られていたが、不自然に一つ空白の場所が設けられている。
今日は十年に一度の赤月夜。二人はこの日に婚姻の儀をすると決めていた。
二人は使用人に促され、扉の前に立つ。正装をした使用人が二人、扉を開けるために横に立つ。
「いよいよだ、緊張しているか?」
「緊張しているのは貴方でしょう? 手汗がすごいですよ」
二人は手を繋いでいる。ラインハルトは顔には汗ひとつ浮かべていないのに、相変わらず手汗がひどい。
「すまない、子供の頃からの癖なんだ。緊張すると、手汗がひどくて。ハンカチをくれ」
ラインハルトが手を離そうとしたので、メアリルは逆に強く握った。
「大丈夫です、厳格王と呼ばれる完璧な国王の弱いところを、私だけが知っているみたいで気分がいい」
ふふ、と笑いかけると、ラインハルトもつられて笑う。
「ラインハルト国王陛下、メアリル様、お二人とも、よろしいですか?」
神官から声がかけられた。二人とも真面目な表情を作り、こくりと頷いた。
扉が開けられる。大神殿の聖狼の間にはたくさんの人が集まり、拍手でラインハルトとメアリルを歓迎した。
天井はステンドグラスになっており、赤い月光に照らされて、様々な形が赤く床に落ちていた。
メアリルは、ラインハルトにエスコートされながらカーペットを歩く。
(あぁ、ようやく……、ラインハルト様の思いに全て応えられる)
メアリルの罪は全て間違いであったと晴らされた。堂々と、ラインハルトの横に立つことができるのだ。
嬉しくて仕方ない。後ろで出された白い尾が忙しなく動いているが、自分では止められない。
しずしずと二人で前を見据え、歩いて行く。
壇上の上では大神官が待っている。二人の婚姻を承認するのだ。
メアリルはその人物を見て、驚いた。
(あ! だ、大神官さま!)
十年経っても変わらない柔和な笑顔と、慈しみの眼差し。
壇上で、ラインハルトとメアリルを待っていたのは、メアリルと共に王都を追放された大神官であった。
「……彼には戻ってきて貰った。黙っていて悪かったな、お前を驚かせたくて」
ラインハルトがメアリルの白狼耳にそっと耳打ちする。
「いいえ、いいえ、嬉しくて、私、どう言えばいいか……」
大神官はメアリルと視線を合わせ、小さく頷いた。メアリルもこくり、と小さく頷く。
二人は壇上にたどり着き、大神官の前に向かい合う。
大神官は初代国王シンダールと聖狼アスティツァーリアへの祈りの言葉を捧げた後、二人に向き合った。
「誓いの言葉を、国王陛下から」
促され、ラインハルトはメアリルの両手を持つ。
「いついかなる時も、伴侶であるメアリルのことを愛し抜きます」
彼らしく、端的で真面目な言葉だと思った。
美辞麗句で飾られた言葉よりも、真面目で、実直な言葉の方がラインハルトらしくて、心に沁み込んだ。自分もその愛に応えたい。
「次はメアリル様です」
すう、と息を吸う。そしてラインハルトの目を外さず、メアリルは口を開けた。
「いついかなる時も、伴侶であるラインハルト様のことを愛し抜きます」
誓いの言葉に定型文句はない。何を言ってもいいのだ。
メアリルは色々と誓いの言葉を考えたのだが、これからはラインハルトを支え、メアリルの役目を果たしたい、という思いから、彼と同じ言葉で誓った。
誓いの言葉を終えると、大神官は天井の丸窓から見える赤い月に深々とお礼をする。
そして、婚姻が承認されたことを高らかに告げた。
割れんばかりの拍手が響く。花びらが降ってきて、二人を祝福した。
二人は互いを見つめ、微笑み合う。
ようやくここまで来ることができた。メアリルは幸せを噛み締める。愛する人と結ばれ、それを皆に祝福してもらえる。また自分自身が何の躊躇いもなく、この人と結ばれてよかった、と心から思えたことがとても嬉しかった。
しばらくすると、鉢植えが一つ運ばれてくる。たった一つだけ残った朱天蘭だ。台の上へと置かれる。
「咲いていますよ!」
メアリルは小声で、やや興奮気味に声を出した。
大きな蕾は開かれ、赤く、見事な花を咲かせている。参列者からも感嘆の声が上がっていた。
「メアリル、こちらを向いてくれ」
そう言われ、顔ごと目線をラインハルトへと移す。
(なんだろう、朱天蘭で何かするのかな?)
ラインハルトは一緒に置いてあった小さな剪定鋏を手に取ると、朱天蘭を切り取った。そして、メアリルが被っている冠の不自然な空白へ、切り取った朱天蘭を差し入れた。
「綺麗だ、メアリル。最高の、俺の妃だ……」
ラインハルトの声は震えていた。目には涙が滲んでいるのがわかる。嬉しさで目を潤ませている。そんなこと、香りを嗅がなくともよくわかる。
メアリルは深く息を吸い込む。本物の朱天蘭が白狼耳の横で揺れ、甘い香りが鼻腔をくすぐった。
身体が高揚している。気分がいい。心地の良い身体の熱さを感じながら、メアリルは頷く。
二人は見つめ合い、やがて自然と唇を合わせた。
あとは定型通りの儀式を終え、二人は退場する。
深夜であるので、晩餐会等は後日に行われることになっている。今日はこれで終わりだ。
扉が閉まる。何故だか、緊張が解けてしまい、メアリルはラインハルトに寄りかかってしまった。立っていられなかったのだ。先ほどまでは心地よく感じていた身体の熱さが徐々にひどくなってきている。
「おっと、大丈夫か? 緊張したか?」
「ラインハルト様……」
メアリルはラインハルトの逞しい胸元にしがみつきながら、上目で見上げる。
この身体の熱さ、火照りには身に覚えがある。
「発情期です……、朱天蘭の香りに当てられたようで……」
ラインハルトは、真剣な面持ちになった。唇を引き結び、少し口を開けると、そうか、と短く告げた。そして、メアリルを抱き上げる。足が宙に浮き、メアリルはしっかりとラインハルトに掴まった。
「王妃が発情期である。これから余と妃は数日の間、新しい屋敷に籠る」
婚姻の儀を終え、オメガの花嫁が発情期に入ることは祝福の証だとされている。
使用人たちは口々におめでとうございます、と告げ、慌ただしく動き始めた。
「ラインハルト様……」
いつも発情期は辛くて、悲しくて、寂しいものだった。しかし今はラインハルトがいる。もう一人で耐えなくてもいいのだ。
「早く……、抱いてください」
甘えるように頭を擦り付けると、ラインハルトの喉仏が大きく動いたのがわかった。
花冠を取られ、メアリルは清潔なシーツの上に下ろされる。ぼうっとしながら、ラインハルトのことを見ていると、彼はサイドテーブルの花瓶に朱天蘭を差した。
「あ、離れないで……」
「どこにも行かない、お前の側にいる」
ラインハルトは上着を乱雑に脱ぎ捨てると、メアリルにのしかかった。
連れて行かれた先は改修をしていた屋敷だった。メアリルと共に暮らせるように、早い段階からラインハルトが改修を計画し、今日までに間に合わせたらしい。
「フェロモンがすごいな……、甘酸っぱくて、芳醇で、俺を誘っている」
「貴方しかいらないから……、んっ」
上着を脱ぎ、ワイシャツのボタンをいくつか外したラインハルトがメアリルに覆いかぶさってきた。
唇を割り開かれ、素直に舌を差し出す。熱く、分厚い舌がメアリルの吐息ごと唇を奪った。
(キスだけで……、こんなに、気持ちいい……)
下着ごと、下衣を降ろされ、少し心許無さを感じた。
発情期の熱に浮かされながらも、メアリルも手を伸ばし、ラインハルトの身体に触れる。
ワイシャツのボタンに触れ、一生懸命脱がそうとするが、うまくいかない。
「焦りすぎだ、メアリル。欲しい気持ちはわかるが、ちょっと落ち着け」
「落ち着くなんて、とても、とても……、発情期の切なさを貴方は知らないから」
「大丈夫だ、俺はここにいる。ゆっくりボタンを外してくれ」
「うぅ、わかりました」
諭されるように言われ、震える指先でそっとボタンを摘む。ひとつひとつ丁寧に外していくごとに胸が高鳴っていく。その間、ラインハルトはメアリルが落ち着くように、額や白狼耳、首元など色々なところにキスを落としたり、身体に優しく触れたりした。
「は、外せました……」
メアリルの服もいつの間にか、前が肌蹴られている。
「ありがとう」
ラインハルトに笑いかけられた。そしてそのまま、ラインハルトは男らしくバサリとワイシャツを脱ぎ捨て、下衣も全て取り去った。
メアリルは湧いてきた生唾をごくりと飲み込んだ。ラインハルトの肌を見るのは初めてであった。
あの忙しい公務の間にどうやってこの鍛え上げられた逞しい肉体を維持しているのだろう。
誘われたような気がして、割れた腹筋へと手を伸ばす。色濃く影のついたそこははっきりと凹凸となっている。なだらかで、細いメアリルの腹とは大違いだ。
それにまだ触れられてもいないのにそそり立っているラインハルト自身が視界に入った。
まだそこを見るのは恥ずかしい。何しろ、メアリル自身よりも太く、長く、頑強そうなのだ。根本の叢も濃く、それに比べると子供のもののような自分が恥ずかしい。
慌てて視線を逸らすように、メアリルも上衣を脱ぐ。下衣や下着はすでに脱がされていたから、もう裸だ。
「絹のようにきめ細かい肌だな。今からこの新雪のような美しいお前に俺を刻みつける」
黒いラインハルトの瞳はもう興奮を隠していない。メアリルはしっかりと目線を合わせた。
直裁的な物言いに顔だけでなく、身体も赤くなってきた。しかし否定はせず、メアリルは刻々と首を縦に振り、同意を示した。
性行為は初めてだ。誰にも肌を許したことはない。
「初めてが貴方で……、本当に嬉しい」
「最初で、最後だ。後ろを向いてくれ。このままじゃ尾が痛いだろう」
メアリルは言われた通り、ラインハルトに尻を向け、四つん這いになった。枕を抱きしめ、秘めた場所を晒す羞恥に耐える。
尾を上げると、ラインハルトには何もかもが丸見えだ。
「ひどく濡れているな……」
「い、言わないでください……」
男性のオメガは発情期になると、後孔が愛液で濡れる。性交をしやすくするためだ。
「触れるぞ」
どこに触れるかはわかっている。メアリルは小さく、はい、と応えて、枕を強く握った。
指先が具合を確かめるように縁に触れられた。くるくると指先に愛液を纏わせた後、ゆっくりと指が入ってくる。
「あ、あぁ、あ」
「痛くないか?」
他人に初めて、身体の中に触れられているということで、あまり余裕がない。まだ指は一本しか入っていないだろう。痛くはないし、圧迫感もない。ただ緊張で力んでしまっていた。
恥ずかしい、初めて他人に身体の中を触れられるのはとても怖い。けれどもそれ以上にラインハルトに触れられているということにどうしようもなく興奮した。指先だけでもどうにかなってしまいそうだ。
「い、痛くは、ありませ……、ん! あ、あぁっ!」
突然そこに触れられ、思わず腰を跳ねさせてしまった。
「んぁあっ、待って、やぁ!」
腹側にあるしこりは自慰の際によく触れていた場所だ。だが他人に触れられるのと、自分で触れるのでは全く違った。
指一本で容赦なく、攻め立てられ、メアリルは身体をくねらせる。
「ひ、んんー、や……、もうイ、ぅ……、ふぅ」
強制的に頂点に上り詰めさせられそうになった時、指が引き抜かれた。もう少しで絶頂しそうだったところを阻止されてしまい、首を後ろに向け、思わず恨めしげな視線を送ってしまう。
「随分とここで遊んでいたようだな?」
ラインハルトは、にやついていた。そして揶揄うような言葉をかけてくる。
それだけでも本当に恥ずかしい。けれども身体の反応は止まらなくて、メアリルは消え入りそうな声で応えた。
「はしたなくて……、ごめんなさい……」
何度もラインハルトのことを思いながら触れた。優しく、でも少し意地悪なことをされる妄想をしながら。
「謝るな、例え指だけであってもお前が快感を得ていることは嬉しい。だがまだ、お前のここはまだ硬い、もう少し解すぞ」
「は、はい……」
今度は二本入れられた。しかし中のしこりには触れられない。時折、指先が掠めるが、決定的な快感は与えられなかった。
「腰が揺れてるぞ、気持ちいいところに当てようとしているだろう」
図星だ。しかし焦らされた身体はもう我慢が効かない。
後ろでイけないならば、せめて前でイきたい。
「あ、ま、前を触っても……? んんぅっ」
「だめだ」
小ぶりだが、色艶と形の良いメアリル自身はもう勃ち上がっている。先端は先走りでべたべたになり、下のシーツにシミを作っていた。
射精したい。だが許されず、苦しい。
指が引き抜かれた。しかしすぐにまた入ってくる。さっきよりも圧迫感がある。おそらく指が増やされたのだろう。
「ひ、ぁ……」
今度はゆっくりと抜き差しをされた。指が引き抜かれる時、全部出て行ってしまうのが嫌で、追い縋るように後孔を窄めてしまう。そうすると、もう一度、指が押し込まれ、しこりをかすめながら、中の媚肉を探っている。
「お前は自分で慰める時、どうやってしているんだ?」
「なっ!」
ラインハルトは一体、何を聞いてくるのだ。
「そ、そんなこと……!」
「言わないなら、指を抜くぞ」
「いや、待って……」
きゅ、と後ろに力を入れ、指に追い縋る。メアリルは顔どころか、身体まで真っ赤にしながら、枕に顔を押し付けた。
「う、後ろに触れ……、ながら、ま、前も、一緒に……、慰め、ていました」
なぜそんなことを聞いてくるのだろう。死ぬほど恥ずかしい。
「……そうか」
質問をしたラインハルトは短く告げる。指はそのまま緩慢に動かされていた。
(淫らな白狼だと、呆れられたのかな……)
馬鹿正直に応えてしまったが、もしかして妻が自慰をしているなんて嫌なのだろうか。メアリルのことをもっと清楚で、奥ゆかしいオメガだと思っていて、がっかりしたのだろうか。
不安に思っていると、いきなりしこりを強く押され、メアリルは身体を震わせた。
「あ、あぁっ、待って、や、ぁあ」
額をぐりぐりと枕に押し付ける。真っ白に飛びそうになった瞬間、指が引き抜かれた。
「なんで……! あぁっ!」
先端が当てられたかと思うと、すぐに灼熱の塊が押し入ってきた。今度は緩慢な動きではなく、一気に奥まで貫かれる。
その瞬間、メアリルの頭は真っ白になり、快感が腰で甘く弾けた。
「や、イき、ま……したっ、んぁあっ!」
挿入されただけで、絶頂に達してしまい、メアリルは信じられない思いで、シーツを掴む。
ぶわあ、とフェロモンが一段と放出される。後ろでラインハルトが息を飲んだのがわかった。
「くっ、うねってるな……、そんなに俺のこれは良いか?」
「いいっ、好き……、これずっと欲しかったぁ……」
身体は歓喜に震えている。頭はぼうっとしてきて、もうラインハルトのことしか考えられない。
好きだ、もっと気持ち良くなりたいし、ラインハルトのことを気持ち良くしたい。
「何度でもくれてやる」
尾の根元を押さえ付けられ、激しい抽送が始まった。繋がっているところが熱を持っている。そこから溶け出してしまいそうだ。
「くっ」
ラインハルトが低く唸り、最奥を突く。メアリルの中のラインハルト自身もびくびくと震えており、熱いもので中を濡らされる感覚にまた身体が高まっていく。
「あぁっ」
「はは、出された感覚でもイったんだな」
恥ずかしいことを言われたが、ラインハルトの声色は幸せそうだ。さらり、と頭も撫でられる。
ラインハルト自身が中から引き抜かれた。するとたっぷりと出されたものが垂れてきてしまい、メアリルは指で後孔を押さえる。
「出ちゃ……、嫌だ」
ぐったりとシーツに身を横たえるが、身体の興奮はまだ覚めていない。
「おいで、今度は顔が見たい」
メアリルは身を起こし、ラインハルトに向き合う。
膝を立てると、中のものがまたこぼれた。
「さみしそうな顔をするな、お前が欲しい分だけくれてやるから」
ラインハルト自身はまだ萎えず、天を仰いでいる。
そそりたったそれに手をかけると、熱さや大きさに少し怯んでしまう。しかし、メアリルは勇気を出して、自分で後孔に当てた。
「あ、あぁ、あん、んーっ」
「ふぅっ」
体重をかけ、なるべく力を入れないように気をつける。まだぬるついている後孔は難なくラインハルト自身を飲み込んでいき、全て収め終えると、メアリルは一息ついた。
再び中がラインハルトでいっぱいになる。いてもたってもいられず、メアリルはラインハルトに自分から口付けた。
口付けをしながらの抽送はゆっくりだ。今度は激しく快感を追うのではなく、慈しみ合いながら、互いを貪り、互いを与え合う。
「綺麗だ、メアリル、愛している、愛している……」
キスの合間に繰り返される愛の言葉が嬉しい。
「私も、愛しています、好き……、大好き」
優しく白狼耳に触れられ、髪を梳かれる。
暖かくて、優しくて、大きな手だ。もっと触れてほしくて、ぐいぐいと押し付けた。
(この人と、ラインハルト様と……、番になりたい)
心の底から思った。番関係は生涯続く。どちらか一方が死なない限り、未来永劫続く関係だ。もちろん、やり直しなどは効かない。
「メアリル」
ややうわずった声で名前を呼ばれた。ラインハルトはメアリルの首筋に歯を立て、噛み跡をつけている。食われてしまうのではないか、というゾクゾク感と、舌で愛撫される心地よさがそのまま快感に直結し、メアリル自身からはとろとろと白濁が流れ出していた。
「俺をお前の番にしてくれ……」
頬が両手で包み込まれた。やっぱり手は少し汗を掻いている。それに語尾も震えていて、ラインハルトの緊張をメアリルに伝えていた。
その思いに応えたい。メアリルも同じ思いだと伝えたい。
メアリルは長く艶やかな白い髪を一方に寄せた。そして白く照り輝く、まだ誰のものにもなっていない頸を晒した。
「もちろんです、私を貴方のものにしてください」
ラインハルトからの返事はなかった。ただ黒い瞳にはもうメアリルしか映っていない。
抱きしめられると、頸に歯が当てられた。先に痛みが走る。そして歯が食い込む。メアリルを抱きしめる力が強くなり、彼が本能のままに噛み付く。
「あ、あぁ……」
噛みつかれた頸が痛いのに、不思議と気持ちよくて、陶然とした気分になる。後孔で中の彼自身を締め付けてしまい、メアリルは緩やかに、再び絶頂へと達した。
すると、今度はメアリルにつられ、ラインハルトも絶頂に達する。
「……はあっ、はぁ」
ラインハルトが口を離した。噛み付いている間、息を止めていたようで、肩で息をしている。今度は手汗どころか、額や肩、腕、腹にまで、汗が滴っていた。
とてつもない愛おしさを覚えたメアリルはラインハルトの後頭部に手を回し、髪を緩くかき混ぜた。
「痛くないか? 後で手当てをさせようか?」
「大丈夫です、貴方が私に刻んでくださった印です。誰にも触らせたくない……」
彼と番になることができた喜びで、胸がいっぱいだ。
触れれば触れるほど愛おしさが増し、身体の奥底まで彼に明け渡したい衝動に駆られた。
見つめ合っていると、どちらからでもなく、お互いに唇を合わせる。頸はヒリヒリしているが、それよりもまだ身体の熱が治まりそうにない。
「発情期は治まりそうか?」
「……わかっているでしょう?」
笑いを含んだ声に、メアリルは挑戦するように微笑む。
「まだまだ貴方が欲しい。番になれば落ち着くと思ったのに……、全然足りないんです」
「大丈夫、俺も同じだ」
頸につけられた噛み跡に優しく唇で触れられた。慈しむように、愛おしむように、大切に触れられる。痛みはもちろんない。
メアリルはラインハルトの頬に手を差し入れる。額を擦り合わせた後、その額に優しく口付けた。
「……これからよろしくお願いしますね、ラインハルト様」
「俺の方こそ、よろしく。メアリル、俺の愛する番」
そうして微笑み合うと、また二人はシーツの海へと溺れていった。
朱天蘭が揺れ、芳しい香りを放つ。ラインハルトとメアリルは興奮を高めていく。
真紅の神聖なる月光が天井の丸窓から漏れている。その光は睦み合う二人をいつまでも、柔らかく照らし、祝福していた。
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