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告白
何度もお店に通っているうちに、石崎さんの手が放せないときはレジ打ちしたり、テーブルの上の後片付けをしたりと、やるタイミングをはかれるようになった。
狭い店内といえど僕が来るまで、よくひとりでお店をまわしていたなと感心しながら、お手伝いに励む。
石崎さんはピアノを弾く僕の手が荒れるのではと心配したけど、むしろなにもしないほうがバリア機能が弱まるんですと説得して、積極的に手伝った。そんなある日――。
ガタンっと大きな音がカウンターからしたので、最後のお客様を見送った僕が振り返ると、そこにいるはずの彼の姿が見当たらなかった。
「石崎さん?」
嫌な予感を抱きつつカウンターに手をかけて覗き込んだら、しゃがんで口元を押さえる石崎さんと目が合った。
「大丈夫ですか?」
慌てて駆け寄り、彼を支えるように寄り添って、背中を優しく擦ってやる。
「明日が……うっ、定休日だからと気を抜いたら、なんか酒が突然一気に回ってしまった」
お客様の入り自体は、いつもより少なかった。だけどオーダーを受けた石崎さんはカクテルを作るとき、きちんと味見をした上で提供している。そのせいで、いろんな種類のアルコールを彼が口にしているのが現状。それが体内でミックスされて、酔いにつながったに違いない。
「僕と違って石崎さんは休憩せずに、ずっと立ちっぱなしですからね。しかもここのところの忙しさで、疲れが溜まっているんですよ。お宅まで送ってあげます。立てますか?」
石崎さんの住むマンションは、お店から徒歩圏内だと聞いていたので、抱えながら送ってあげようと思ったのに、目の前で首を横に振られてしまった。
「聖哉をピアニストとして雇ったハズなのに、あれこれやらせた挙句に、俺の介抱までさせるとか、そんなのありえないだろ。大丈夫だ、酒が抜けるまでここで横になる」
「そんなの疲れがとれません。ダメに決まってるでしょ!」
大きな声で即答したのは、彼のことが心配だったから。
「聖哉……」
「忙しさをやり過ごした毎日を送った結果が、これなんですよ。ちゃんと休息をとらないと、今度は倒れるかもしれません。僕に救急車を呼ばせるつもりですか?」
石崎さんの顔を覗き込みながら、彼が嫌がりそうなことをわざと口にした。
「わかった、そんな怖い顔で睨んでくれるな」
「誰が怖い顔をさせてるのか、そこのところわかってます?」
おどけた口調で笑ったら、石崎さんは困った顔をしつつ僕に寄りかかった。
「ウチの専属ピアニスト先生は、随分と口が達者なようだからな。言うことをきいておく」
こうしてお店の後片付けも適当に終わらせて、ふらつく足取りの石崎さんに肩を貸しながら、彼の住むマンションに向かった。
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