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告白3

***  なにがどうしてこうなったのか、最初はまったくわからなかった。目の前にあるのは多分石崎さんの胸だろう。だけど昨日着ていた服じゃなく、トレーナーみたいな室内着に変わっていたことで、彼が一度目覚めて着替えたのがわかった。 (ふたりしてあのまま寝ちゃったことはわかるけど、どうして僕は石崎さんに抱きしめられているんだ? もしや、抱き枕みたいにされてるとか?)  頭の中に、たくさんの疑問符が浮かんでは消えていく。しかしながらちょっと苦しいので、遠慮してもらわなくてはと思い、体の隙間に自分の両手を入れて、石崎さんの胸を押した。 「聖哉、起きたのか?」 「あ、おはようございます。あのまま寝てしまってすみません」 「聖哉が掛け布団代わりになってくれたからな。何気に俺もあのまま寝ちゃったし」  そう言った石崎さんは僕の体から両腕を外してくれたのに、なぜか僕の上に跨って見下ろす。その瞬間、ベッドが軋んだ音をたてた。 「あのさ、聖哉。昨日のことなんだけど」 「昨日のこと?」  跨った石崎さんは視線を落ち着きなく右往左往してから、口を引き結ぶ。言いにくそうな雰囲気を感じ、「なにかありましたか?」と僕から声をかけた。 「昨日ここで言ったこと。その……聖哉が好きって」 「えっ?」 「なんか、勢いで言ってしまった感があるなと思ってさ」  彷徨っていた視線が、ぴたりと僕に定まった。 「石崎さん?」 「本人を前にそれを口にして、改めて自分の気持ちがわかった気がするんだ」  そう言った石崎さんは、僕の頬に優しく触れる。石崎さんの手のひらの熱が高くて、これはマズイのではと慌てふためいた。 「石崎さん、手が熱いです。きっと熱がありますよ。ちゃんと寝なきゃ!」  頬に触れる手を両手で外し、みずから体温を測ってみる。彼の手が僕よりも熱があるのは、確かだった。 「きっと聖哉が傍にいるから、熱があるのかもしれない。おまえがほしくて堪らないんだよ」 「なにをわけのわからないことを、言ってるんですか。ほら、ちゃんと寝てください」  跨ってる石崎さんと対峙するように起き上がり、彼を退かせようとしたら、ぎゅっと抱き竦められてしまった。 「俺、聖哉が好きなんだ」 「石崎さんわかってます? 病人はおとなしく、横になってくださいって!」  耳元で告げられたセリフを華麗にスルーしたのは、石崎さんが熱でおかしくなっていると思ったから。 「おまえは俺のこと、どう思ってるんだ?」 「どうって?」 「昨夜は好きだと言ってたけど、寝ぼけて言った可能性も捨てきれないと思ってさ」 「僕が石崎さんを好き?」 「俺は聖哉が好きだよ」  テンポよく会話をかわしたあとで、僕が疑問形で訊ねたというのに、まるで愛の告白に対しての答えを石崎さんは口にした。 「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいっ!」  ここでやっと気づいた。強く抱きしめられているせいで、僕の体に石崎さんのカタチの変わったアレが当たっていることに! (僕は男なのに、石崎さんのアレが大きくなっているということは――)  そんな彼とベッドインした時点で、危険度が二割増しになることに、ようやく気付いてしまった。 「聖哉?」 「すみません。僕が昨日口走ったことはですね、石崎さんの作るカクテルが好きと言ったことでして、石崎さん本人じゃないんです!」  僕の絶叫が、寝室に虚しく響いた。目に映る石崎さんの面持ちは、ショックを隠しきれないのが見てとれるせいで、直視するのを躊躇うくらいに酷いものだった。 「聖哉は……俺のこと、どう思ってる?」  僕の絶叫とは対象的な、とてもか弱い声。いつもハキハキ喋る人なのに、聞いたことのないそれを耳にしただけで、否応なしに胸が苦しくなる。 「と、友達としてなら……」 「だよな、普通はそうなんだよ。悪い、昨日好きって言われたのが嬉しくて、ひとりで舞いあがってしまった」  石崎さんはあからさまな作り笑いをしながら、僕の体からおりて背中を向ける。  彼が極力傷つかないように言葉を選んだものの、結局は傷つけてしまったことに、どうしようもない苛立ちを覚えた。 「石崎さん、ごめんなさい。僕、帰ります!」  長居は無用と言わんばかりにベッドから飛び出し、そのまま玄関に向かって一直線に進んだ。靴を履いて玄関の扉を開けても、彼は出てくる様子もなく、静まり返った室内はまるで、彼の心を表しているように感じたのだった。

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