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想いの変化2
***
聖哉からの偏見を感じないことを逆手に取り、自分なりに日々アピールを繰り返した。
少しでも彼との距離が縮まったら、もしかしたら付き合える可能性も出てくると睨み、基本お喋りじゃない俺が積極的に聖哉に話しかけたおかげで、最初の頃よりはいい関係を築けたと思う。
出逢いが最悪だったから、なおのことだ。
店でピアノを奏でる彼は、お客様が居心地よく過ごせるように弾いてるゆえに、みんなのものって感じ。いわゆる仕事中の聖哉。
だが店を閉めて並んで歩く帰り道は、プライベートの聖哉なんだ。一緒にいるだけで、彼を独占した気分になれた。だから余計に嬉しかったし、しあわせを感じることができた。
並んで歩いていると、時折少しだけ肩が触れたり、手の甲同士が触れそうで触れないギリギリのところを見て、妙にドキドキしたり。久しぶりに恋してることを、まざまざと実感させられた。
そんなある日、一緒に帰りながら俺の話が途切れたとき、聖哉が斜め上にある三日月を眺めた。ピアノを弾くときや、困ったことがあるとすぐに俯く彼が、背筋を伸ばしながら夜空を眺める姿は凛としていて、綺麗という言葉がすごく似合ってた。
それに惹き寄せられるように顔を近づけてキスしてしまったのは、理性が吹っ飛んだとかじゃなく、自然に引き寄せられてしまった感じだった。
苦しそうに胸元を押さえて、目の前から消えてしまった聖哉のあとを追うことなんて、俺にできるわけもなく、自らやらかした行為をひたすら反省するしかなかった。
「もう聖哉は、店に現れないかもしれない――」
見た目以上に柔らかさのあった聖哉の唇を思い出すように、自分の唇を噛みしめる。
「あーもう、なにやってんだよ俺!」
髪を両手で掻きむしったところで、後の祭り。自分の手で、恋に終止符を打ったと絶望した次の日。
「こんばんは……」
いつもよりおどおどした聖哉が、店に現れたのである。夢かと思った。絶対に店に来ないと思っていたから、彼の姿が幻なんじゃないかと、自分の目を疑った。
「聖哉っ!」
開店前で時間があるからこそ、俺は持っていたふきんをぶん投げて、急いでカウンターから飛び出し、聖哉の前で深く頭をさげた。
「昨日は本当に悪かった! 謝ったところで昨日のことが消えるわけじゃないが、本当に済まなかった!」
「僕にも、隙があったのがいけないと思うんです。だからもう忘れましょう?」
「でも……」
頭をさげたままの俺に、聖哉はいつもどおりの口調で話しかける。
「それと、これからは送らなくていいですから。ひとりで帰ります」
「わかった」
店を出たら、背中合わせで帰ることになる。それはとても寂しいが、自分がしでかしたことが原因なので、了承するしかなかった。
「石崎さん、今夜はいつもと違った曲を弾こうと思って、少しだけ早く来ちゃったんです。練習してもいいですよね?」
恐るおそる頭をあげた俺の目の前を、空気をちょっとだけ揺らすように歩いてピアノに近づいた聖哉。俺から逃げる感じじゃないことに、内心かなりほっとしたのだった。
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